ゴキ次郎
先日、野人宅のゴキが・・最後の別れに出て来た。
ゴキ次郎を最後にしばらく静かだったのだが急に騒々しく動き出した。野人の部屋の回りの鴨居をガサゴソ回り始めた、しかも2匹で・・・1周したと思えば2周目に突入。
仕事中の野人の頭の近くの鴨居をガサゴソ歩くので・・
「やかましい~~!!」
と言うと、ゴキはピタリと止まった。
後ろを振り返るともう1匹も止まっている。
野人の一喝が効いたようだ。意味もなく鴨居を2周するゴキなど聞いたことがない。
すぐ上のゴキは野人をじっと見ながら手を・・いや、触覚を振っている。
「ゴキ・・次郎か?」と言うと、ゴソゴソと一回転した。どうも言葉が通じたみたいだ。
野人に用があるなら回りくどいことをせずに、ここまで来れば良い、走馬灯ではないのだ。
だいたいゴキの走馬灯なんて絵にならない。そして用件は端的に言えば良い。
ハラが減っているなら「ゴキバラ減った」と・・・
ゴキに近付き指を差し出し、「お手」・・と言おうとしたが、つい・・
「お触覚!」・・と言ってしまった。
すると、触覚で野人の指をスリスリするのでゴキ次郎に間違いないようだ。
ゴキ次郎に、「おい・・あいつは誰だ?」と、もう一匹のゴキを指さして聞くと、Ⅴサインのような触覚をワイパーのように横に動かし、お尻をクイクイ・・
動きがいやらしい・・
ゴキ次郎のカミさんだった。
旅立ちを前にうまいことやりよった。うらやましい・・
お祝いにエサをやるとゴキ次郎は食べなかった。もうヤルことやって思い残すことはないのだろう。
ついでにカミさんの「ゴキ子」に近付き指を出すとやはり触覚でご挨拶をしてくれた。近くでよく見ればゴキにしてはなかなかの器量だ。
ゴキは人間に最も近い虫で、人と共に生きたいのかもしれない。虫族の中では唯一言葉がよく通じるのだが、人にあまりにも嫌われ過ぎている。カラスと同じで可哀そうだが仕方ない。
挨拶が済むとゴキ次郎とゴキ子は並んで台所のほうに戻って行った。
それきりゴキは見ていない。ゴキよ・・さらば・・・
ヘミング・ムー