カジキのツノの表面とその役割 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

130キロのクロカワカジキのツノ 60cm

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カジキの仲間は口吻が全て突き出て「ツノ」になっている。釣りの対象で最大600キロ以上にもなるクロカワカジキ、次に大きいシロカワカジキ、中型で美味しいメカジキ、マカジキ、20キロ平均で大きな背びれを持つバショウカジキなど、すべてツノが突き出ている。このツノで怪我をした漁師や釣り人も多く、時には船体をも突き破る。しかしカジキのツノは相手を突く為のものではない。たまたま突進したら突き刺さっただけだ。

よく見ればわかるが、表面はヤスリのようにザラザラしている。突くのが目的なら刺さりやすいように滑らかで先も鋭いはずだがそれほど鋭くもない。テレビなどでカジキの給餌活動を見たことのある人もいるだろうが、カジキは集団でエサを追い込むことが多い。取り囲んだ輪を縮めて行くとエサのサバやイワシなどは集団の塊になって防衛しようとする。周囲が食われても中にいれば助かる可能性があるからだ。イワシなどはそうして数の論理で生き延び、繁殖して数を増やして来た。プランクとを食べるイワシはすべての肉食魚に追われる立場にあり、海の食物連鎖の根幹を支えている神様のような魚だ。

カジキのツノはイワシなどの魚の集団に突進して「かき回す」為のものだ。このツノに触れた魚は弱って群れからこぼれる。そこを捕食するのだ。イルカならともかく、カジキは魚とも思えないような知恵を持っている。

カジキのこの修正を逆手にとった漁法がトンガに伝わっている。カジキを釣るのに高価なルアーや強靭な針は使わない。メカジキ以外のカジキは表層を回遊している。表層に仕掛けを流しながら釣るトローリングと、突きん棒漁が主な漁法だが、トンガではカラフルなビニールを割いて1mくらいのヒモ状にして何十本も束ねたものをロープに結んで表層を引く。それだけでカジキが釣れるのだ。カジキがエサと思って突進、いつものようにツノで叩いて失神させようとする。すると細いビニールの紐がツノに絡み付いてがんじがらめになる。後は引き揚げるだけだ。現代人はそんなことまで考えが及ばない。海と向き合い、カジキと向き合ってひらめいた伝統漁法なのだ。人はお金がないほど知恵が磨かれ、自然界の道理を知り、自然と共生出来るようだ。この笑い話のようなカジキ釣り、尊敬に値するのではないだろうか。