漁船転覆 ブローチング現象 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

長崎沖で漁船が転覆、今も多くの人が行方不明になっている。

みのもんたの朝の番組で原因の考証をやっていたが、呼ばれた専門家は野人の母校、東海大海洋学部の元教授だった。

専門は航海、気象で、転覆の主因になったであろう「ブローチング現象」を模型を使ったシュミレーションビデオで説明していた。


20代の野人が東シナ海で船長をしていた頃もこのブローチング現象で何度か窮地に陥ったことがある。

操船を誤れば海の藻屑になってしまう。こればかりは技術で乗り切るしかない。

東シナ海は国内で3本の指に入るほどの荒海でトカラ列島は黒潮本流の真只中。そこが野人の主戦場だった。

不定期航路の「朝凪」はチャーターされればどんな秘境、無人島へも数日間の航海をした。屋久島から長崎県の男女群島まで走った事もある。

最近はお百姓さんのイメージが強いが、本来は船乗りで、まだ引退もしていない現役で相変わらず海にも潜っている。


ブローチング現象とは、船の斜め後ろから追い波を受け、波の谷間に滑り落ちる時、波の速度と船の速度が同じになる。

そうなれば舵がまったく効かなくなり、船尾が斜め後ろから押されて谷間に横倒し、つまり転覆することになる。

これを避けるには、そうなる前にスピードを落とすか、コースを変えて谷底のほうに舵を切るしかない。

バイクで言うなら逆ハンドルのようなものだが、船が大きいほど小回りがきかず思うように行かない。

波の谷底に船首から突っ込んで潜水艦のようになってもそのほうがまだ安全なのだ。

舵は水の抵抗で効くような仕組み、スピードの足並みが揃えば無力だ。

だから波に船尾横を押されて傾いたまま真横になり、さらに押されて波の底に横倒しになる。


これからまた「東シナ海流」の後編を書くが、その中に「船よ起き上がれ」と言う目次がある。

ブローチング現象でデッキが大量に冠水、傾いているので海水が片弦に集まり、そのまま片側が海中に水没、45度に傾き、起き上がらないまま走行したのだ。

遠心力を利用した操船で自然排水を待ちながらやっと復元した。

この時も転覆と復元は紙一重だっただろう。

ブローチング現象の怖さを思い知った時だ。

咄嗟の判断で助かったから学習して身に付いたが、助からなかったら学習にはならなかっただろう。

長崎の転覆現場はまだ海は荒れて捜索も困難なようだが早期の発見を祈っている。