甘い「鎌の柄」の実 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

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12月だと言うのにカマツカの実がまだ残っていた。バラ科の落葉低木、カマツカは鎌柄とも書き、字の如く鎌の柄に使われるほど硬い木だ。春に小さな白い花を咲かせ、秋には大豆くらいの赤い実をつける。別名ウシゴロシとも言うが、これで牛を叩いたわけでもない。昔は牛に鼻輪を着ける時にこの木で鼻に穴を開けていた。痛くて涙も出るだろう。「ウシナカセ」と言ったほうがピッタリで、牛にとっては天敵の木だ。野人は昔からこの実をよく食べていた。ボソボソして旨いと言うほどのものではないが、ほんのりと甘いのだ。食用木の実としてはあまり紹介されないが、ムラサキシキブやタラの実、ウドの実、エノキ、ムクなど、熟す木の実は基本的に甘くなる。鳥に食べさせて種を運んでもらう為だ。毒やエグ味がない限り食べられる。大量に食べるものでもないが、何粒か口に入れると山の味がして楽しいものだ。覚えておくとこの糖分は、秋の山で遭難した時の補給エネルギーくらいにはなる。何処の山でも見かける木だ。同じバラ科でも間違えてトゲのある「ノイバラ」の実を食べてはいけない。毒ではないが、漢方では「営実」と言って下剤に用いられている。頻繁にブッシュに駆け込み、広くて丈夫で破れない葉っぱを捜すことになる。死にはしないが体力を消耗するだろう。逆に便秘の女性はすっきり爽快な気分で山を下りることになる。