土壌が肥えることなどはない | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

人は肥沃な土壌、肥えた農地を求める。しかし自然界にはそんな場所はない。一見肥えているように見えても自然界にとってはその場所は丁度良いバランスがとれている。

地球の土壌は何百万年もかかって出来上がった。このうち、耕地に利用出来る表土の厚みは平均18cm。4億年前に形成された大気層の厚さは15km。20億年以上かけて形成、紫外線から地球を守るオゾン層の厚さはわずか3mmだ。地球上のすべての生命は、この微妙で壊れやすいバランスの上に成り立っている。人はオゾン層をも破壊して深刻な問題になっているが大地も同じ事。表土が出来るのは気が遠くなるような時間がかかるが失われるのは早い。北アメリカで大草原を小麦畑に変えた。収穫後の畑の土が風に飛ばされ、16年間に3cm近い割合で表土が失われていった。それだけの土が出来るのには数百年から千年はかかるのだ。大地を丸裸にするのは愚かな事。雨の多い日本ではまったく気にしないようだがそのような場所ばかりではない。その日本でさえも大量の農業用水を使用しているのが現在の農業で、水不足になるのが当たり前なのだ。世界各地で地下水をアテにして草原を農地に変えたが、地下水が枯渇すればそれらはやがて砂漠になってしまうのだ。中国最大の農地、華北平原の地下水の低下は酷い。小規模農家の井戸は枯渇している状況だ。それでも地下深く水を求めているが一時しのぎに過ぎない。

海の藻類が海の生命を養っているのと同じように、藻類から生まれた植物は地上すべての生命を養っている。それは土壌を作ることから始まっているのだ。微生物、昆虫、動物、全ての生き物達がそれに協力している。自分達が生き残る為だ。土壌とは彼らが作った産物であり、人知の及ばない最高の有機物なのだ。土壌を起点に生命が誕生し、また元の大気と水に戻って行く。土壌は地球の浄化槽のようなものだ。健全な土壌がなければ生命は生まれないし消滅もしない。今、急に土壌がなくなれば地球は汚物の山になってしまう。常に土壌は有機物のバランスを健全に保とうとしている。だから異常に肥えた土壌などは存在しない。あるとするならそれは人工的に作ったものだ。人は大量の堆肥や土壌改良剤を投入して「肥えた土壌」を維持しようとするが、地球にとっては異物でしかない。異物を正常にしようとするのが草や虫だ。植物は土壌から余分なものを大量に吸い上げ、元の大気と水に戻そうとするが、虫もそれに群がり地上に分散しようとしている。特に野菜は、生命力が本来のものではない肥満野菜だから草よりも柔らかくて食べやすい。レタスはキク科、ヨモギと同じで絶対に虫は食べないが、食べられるのは肥料で異常に膨らんだレタスだけで、もはや「キク科の本質」が薄れた異常な植物だからそうなってしまう。それが地上の仕組みだ。それに戦いを挑み続けるのは、文明なのか、人の欲なのか、いずれにせよそれは人間の道理でしかないように思う。プラス思考の知恵とは、足し算ばかりでなく、時には引き算も必要なのだ。