「アカニシ」の旨味と甘味 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは


アカニシと言う貝がある。内湾の浅い泥混じりの磯や浜に多い。

ニシガイの仲間には、磯には潮が引くと5cm以上になる「レイシガイ」、小粒な「イボニシ」が生息、大量に獲れる。

特徴は貝殻全体に小さなコブがあり、子供の頃はよく獲ったが、茹でて「針」でくり抜いて食べるとやや苦味がありそれがまた旨い。

イボニシは貝の裏側が黒いのが特徴だ。ニシガイの特徴は他の貝に穴を開け、消化液を注入して身を溶かして吸い出して食べる。

つまり他の貝の「天敵」だ。大型になる「ほら貝」も同じで貝を好んで食べる。


アカニシはサザエなどと違って、初心者でも比較的簡単に浅瀬で獲れる貝だ。

小さなものはアサリなどと一緒に、大きなものは600gから1キロ近いものまで潜って獲れる。

あまり市場には出回らないマイナーな貝だが味は良い。

昔はその身を「サザエのつぼ焼き」と偽って売られていた時期もある。

知名度が低いと当然価格は安くなる。

小さなものは茹でて食べるが大きなものは「刺身」が一番だ。

尻尾には苦味がありあまり食べないが、中心の白身は驚くほど甘くて柔らかい。

高価なミルガイのような味で、サザエやアワビにはない「甘さ」なのだ。

足の部分はやや硬いがコリコリとした歯ざわりでなかなかイケる。


刺身にするには尻尾の部分から順にカナヅチで割れば良い。

名前を出さず黙って食べ比べたら、甘さでアカニシに軍配が上がるだろう。

日本海にはこのアカニシを名物料理にしているところもある。

店で見かけたら「買い得の貝」なのだ。

参考だが、先日の市場の価格ではアカニシは1キロ900円、サザエは1400円、トコブシは3500円、アワビは8000円だった。店頭ではもっと高くなる。


名前で食べればアワビに人気が集まるが、「黙って食べれば」たぶんアカニシだろうと思っている。

野人は子供の頃からアワビを獲ってイヤになるほど食べてきたが価格の差ほど味に差はない。アワビの一番不味い食べ方は「刺身」だと思っている。


テレビ番組でも「いや~コリコリして旨いですね!」と必ず言うが、貝はすべてコリコリしているのだ、甘いと言う人はいない。

アワビは高価で旨いと言う先入観があるから旨いのだ。


アワビの旨い食べ方は、大きなものも殻ごと煮て食べるかステーキだろう。

バターソースとの相性がすこぶる良い。

刺身で甘いのは「ミルガイ」か「アカニシ」だ。


一度、知人にアカニシの刺身を「千個に一個の甘アワビ」と騙して食べさせてみるか・・・


写真は下がサザエで上の二つがアカニシだ。