魚の旨味 イノシン酸ランキング | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

旨味物質の主なものとしてグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸などがある。グルタミン酸はタンパク質を構成する20種類のアミノ酸の中の一つで、イノシン酸、グアニル酸は核酸に分類される。グルタミン酸は昆布や野菜に、イノシン酸は魚や肉に、グアニル酸はキノコに多く含まれ、貝類の旨味の元はコハク酸だ。旨味成分は熟成によっても増え、トマトなどの実野菜は真っ赤に熟すほどグルタミン酸が増加する。ケースにもよるが、魚や肉も時間の経過によってはタンパク質が分解されてアミノ酸になったり、筋肉中のエネルギー源として蓄積された成分が分解されてイノシン酸が増えたりする。肉は熟成させるほうが美味しく、昆布やカツオ節や煮干やシイタケも乾燥させて旨味成分を引き出している。魚では、マグロやブリなどのような大きなものは数日寝かせると旨味が増す。マダイなどの白身でも活き締めしてから数時間経過したほうが歯ざわりも良く旨味も増している。アジも活きをそのまま造りにするより数時間寝かしたほうが刺身ははるかに旨い。ブリもアジも鮮度が良すぎるとゴムを食べているようで美味しくはない。活きのアジを握る寿司屋に文句を言ったら、それからアジは寝かせて握るようになった。魚はすべてそのほうが良いわけではなく、メバルやカレイなどの磯の小魚は活きたもののほうがはるかに旨い。肉質やサイズによっても差は出てくる。「活き造り」はあくまで視覚と歯ごたえで楽しませるもので必ずしも旨いとは言い切れない。

魚のイノシン酸含有量ランキングをあげると、獲れる海域と季節とサイズで差はあるが、ナンバー1は「サバ」だ。カツオ節ばかりが重宝されているが、「サバ節」は捨てがたいダシになるのだ。サバの活き腐れと言われるくらい鮮度が落ちるのが速い理由は旨味成分が多く、早く分解が進むからなのだ。二番目は意外なもので、カツオの「血合い」だ。普通は捨てられているのだが野人は絶対に捨てない。赤黒くて骨が並んでいて食べ辛いが、焼いたり煮たりするとその赤黒さが「絶品」に変身する。カツオの身はスカスカでそうはならない。「カツオのハラモ」と言うトロの部分も非常に美味しいが、脂の成分が多いからだ。三番目はイワシだ。魚に弱いと書いて「鰯」、これもサバ同様筋肉の分解が早く進むからだ。カツオとサバとイワシの刺身が旨くてたまらないのはそんな理由がある。この中でカツオ節と煮干は「ダシ」の代表格になっているがサバ節はそれほどでもない。乱獲でサバの数も減少、最近は高価な魚になりつつある。一方で定置網には小サバが大量に入るが、肥料や飼料の他、捨てられる運命にある。一端網に入れば逃がしても活きられないし、揚げるしかないのだ。それくらいなら「サバの煮干」にしたほうがはるかに役に立つし美味しくいただける。屋久島ではゴマサバの「サバ節」が作られている。そばのダシなど業務用でこだわる料理人には人気があるのだが、もっと一般家庭に普及しても良いのではなかろうか。サバ節をカツオ節や煮干より「下に見る」理由など何処にもなく、旨味成分はサバのほうがはるかに多い。