船の側で愛嬌振りまくミズナギドリ | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは


釣りの最中にミズナギドリがすり寄って来た。海面は見渡す限りカタクチイワシがピチピチ跳ねてさざ波のようになっていた。カタクチイワシをエサにするならたぶん「ハイイロミズナギドリ」だろうが定かでない。その中の一匹は愛嬌があり、船が移動しても後をついて来た。船べりを叩くと1mの距離まで泳いでくる。周りを泳ぎ回るので釣り糸を引っ掛けて、はた迷惑なのだが客は喜んでいた。30分以上はそうやってつきまとわれてしまった。ハイイロミズナギドリやクチボソミズナギドリはオーストラリアの周囲の島々で繁殖し、赤道を越えてベーリング海まで旅をする。その途中に日本に立ち寄るのだ。鳩くらいの大きさで懸命に海に潜りイワシやコウナゴを追いかける。真下でエサを追う貴重な姿が目撃できた。水をはじく羽はシルバーに輝き、魚のように水をかく。感動的だった。海中のエサを追う水鳥を水面の真上から見られる機会などそう何度もない。残念ながら撮影はタイミングが合わなかった。皆が「人に慣れた鳥ですねえ」と言うので、「いや、慣れているのではなく、沖にしかいないから人間をあまり知らないんです」と答えた。彼らは集団で海にプカプカ浮いたまま眠っている。以前に翼を傷めたミズナギドリを保護、傷は治りかけたがエサを与えても食べない。困り果てて大きな魚の水槽に泳がせたら生き生きしてきて、そこにイワシを放すと潜って食べ始めた。やはり彼らの食の習性は、海水ごと活きた魚を食べる事で人間のほどこしは受けない。「お水」と名づけたそのミズナギドリは1週間で旅立って行った。礼も言わずに・・・さすがだ。