春を告げるメバルとワカメ | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

眼張と書いてメバルと読み、若布と書いてワカメと読む。3月、ワカメの収穫が終盤となり、メバルの季節が始まる。春の磯では干潮時に岸壁から天然ワカメの群生が見られ、膝まで海に入れば手が届く。岩にはヒジキも群生しているが、ワカメもヒジキも乾物にはなじみがあっても原型を知る人は少ない。ヒジキなど「えー!これがヒジキ?」と驚くばかりだ。収穫して磯で干して灰汁であく抜き、これを繰り返して黒い糸くずみたいなヒジキが出来上がる。ヒジキは、茶緑っぽくやや太い葉が一本の茎に鈴なりになっている。ワカメは図鑑で見るように、ウチワのような形で浅い水中に漂っている。根はあくまで岩に固定する為だけのもので仮根とも呼ばれ、葉から海の栄養分を吸収している。ワカメの根元は太くジャバラ状になっていて、これがメカブと呼ばれ重宝される。メカブは繁殖の為の胞子を飛ばす器官で、ワカメと違いねばりが強く栄養価も豊富だ。海の有機野菜とも言われる程で、健康食としても注目されている。

ワカメを観察していると、メバルの稚魚が群れているのが見える。眼張の字の如く、目玉が異常に大きく、皆一様に斜め上を向いて海中に漂っているのが可笑しい。可愛そうだがどうしてもメバルの刺身とメカブどんぶりを想像してしまう。自分にとっては春の代表的なご馳走だが、あまり一般的ではないようだ。メバルは一年中釣れるが、3月から5月が最盛期となる。磯でも良いが、船から2030mの水深を探ると良型が数釣れる。煮魚が代表とされるが、新鮮なメバルは何と言っても刺身や握りが美味しい。10cm程度のメバルも「背ごし」で食べる。背ごしとは、頭を取り、硬い背びれだけ取り除き、皮、背骨ごと薄くぶつぎりにして酢味噌で食べる刺身のことで、背骨も柔らかく食べられるので健康的だ。ツマの生ワカメもさっと湯を通して一緒に酢味噌で食べる。また大量に釣れた時は、天日干しにしても美味しい。ワカメと魚の組み合わせは生活習慣病の予防効果がより強まる理想的な食事だ。

世界中に何千種類もの海藻があるが、食用にしている地域はほとんどなく、日本と韓国ぐらいだ。日本の海藻食の歴史は古く、縄文時代から食べられている。奈良時代には租税として取り扱われ、大宝律令にはワカメ、アラメ、テングサなどの名前が記され、そのなかでメカブは「マナカシ」として別記されている。当時から貴重なものだったようだ。