カリブ海で鮫と遊ぶ | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

以前にカリブ海に突き出たメキシコのユカタン半島へ仕事で行った事がある。

カンクンと言うリゾート地で、日本人はあまり見かけなかった。

日本からはダラス経由だったと思うが随分時間がかかる。

 

マヤ遺跡までは2時間くらいだったが、無精者ゆえ10日滞在したにもかかわらず見物に出かける事はなかった。

数人でカジキのトローリングに出て、途中、ある島へ昼食の為に寄港した。

桟橋の横には太い杭で囲まれたイケスがあり、中には3m近い獰猛な面構えをした鮫が3匹泳いでいた。

 

皆が恐る恐る覗き込んでいる時、つい余計な事を言ってしまった。

 

「この鮫は人を襲わないから大丈夫」と。

 

一斉に視線がこちらへ・・・

 

「そんなこと言うなら飛び込んでみてよ!」。

 

言った手前引っ込みがつかなくなり飛び込むことにした。

水深は3mくらいで、飛び込んでそのまま鮫のヒレに掴まり海中で跨った。

鮫が浮上したので今度はロデオみたいに手を振りながら皆に愛想を振りまいた。

イルカに乗った少年の歌を歌いたかったが歌詞を覚えていない。

 

誰も笑わず、硬直した顔で

 

「何で大丈夫?鮫とお友達?」・・と言うので、

 

鮫の口をこじ開けて

 

「よく見ろ、この鮫には歯がないだろうが~ははは・・」

 

・・そう言うと、皆の目は小豆になっていた。

 

黙っていればシラけることもなかった。

食後に桟橋に戻ると人だかりがあり、色の黒いメキシコ人が鮫に跨り両手で大きく鮫の口を広げていた。

ショープールの鮫は最初から歯がない種類の鮫だった。

ジンベイザメでもなく、人が歯を抜いたわけでもない。

 

再び大きく口を開かれた鮫は尾を振りながら情けなそうな顔をしていて、鮫よりもヒゲもじゃらのメキシコ人の顔のほうが迫力があり怖かった。