海水には傷を癒す力がある | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

海水はこの地球上で最もエネルギーを持った物質だ。真水も酸素も自然現象もすべて海を中心に循環している。生命もまた海水の中から生まれ陸へと進出した。その名残を持った生き物は産卵の為に海へと帰る。鮭や鮎は川で産卵し稚魚は海で育つ。未知の生態を持つウナギは飲まず食わずでマリアナ海溝を目指す。隆起した土壌、植物、それを食べて生きている動物もまた海水の成分で構成されている。生理的食塩水と言う言葉もある。人の体の比重も海水と同じで、海では浮きも沈みもせず、ジタバタしなくても空気が詰まった肺の容積の分だけ必ず浮くようになっている。人の体は魚と同じ密度で、つまり海で生きていたと言うことの証明だ。海水のほうが体が浮きやすいのではなく、プールの真水のほうが海水より比重が低いから沈みやすいと言った方が的確だ。海水は生命の起源、いまだ解明されない相当なエネルギーを秘めている。灯台元暗し、もっと海水を見直しても良いのではないだろうか。感謝の気持ちがあるなら汚染はもってのほかだ。健康を望むなら海に浸かり海水を飲めば簡単だ。

小さい頃から海に潜り、中高は3月から12月まで裸で海へ入っていた。小雪がちらつこうがおかまいなし、ひたすらサザエを獲っていた。おかげで学校の弁当はいつも煮たサザエで責任を取らされた。大学へ入り、一年生の夏にヘルペスにかかった。医者にかかる習性がなかったので自力で治そうとしたが駄目だった。水疱瘡が首から胸、右手から背中まで広がり、連日40度の熱で強烈な激痛に睡眠も食事もとれなかった。三日間耐えたが、このままでは死ぬと思いついにギブアップして医者へ這って行った。ウイルスが全身に広がれば本当にそうなってしまうところだった。そこまで広がったのは医者も初めてだったらしい。通常は激痛に耐えられずすぐに病院に来ると。何とか症状は治まったが上半身は包帯で包まれ、皮膚はジュクジュクして完治しない。必修科目の海洋実習に参加できなければ単位を落としてしまう。包帯グルグル巻きのまま上からシャツを羽織って参加した。航海へ出る前の遠泳の時間、仕方なく浜で包帯をとったが、傷に驚く友人たちに説明するのが面倒だった。こりゃ何だ?梅毒か?とか散々言われてしまったが、構わずに泳ぎ続けた。帰ってから浜に寝転び紫外線消毒、皮膚はただれて気持ち悪かったが、翌日にはケロリと治っていた。乾いた皮膚も日焼けみたいにはがれた。笑いが止まらず船に乗り込み無事出航したが、本当に神様と言うより「海」に感謝した。小さな頃から育ててもらい、美味しいものを食べさせてくれ、水泳で全国大会へ行けるほどのパワーをもらい、またこうやって傷を治してくれた。それまでも小さな傷はいつも海に浸かっていれば自然に治っていたのだが、それに気づかず、これだけの傷を治してもらい初めてその力に気がついた。今でも海に浸かるとすこぶる体調が良くなるのがはっきりとわかる。海水は計り知れない力を秘めている。紫外線の害を気にするあまり、もっと大切なことを見逃しているのではないだろうか。人は何万年も適度な紫外線の下で生きてきた。