2003年の8月6日に
スウィートドーナッツ
を発売してから、PerfumeはPerfume名義で3枚のシングルCDをリリースします。
各曲の歌い出しソロパートは、こんな感じです。
1.スウィートドーナッツ (K)
cw1.シークレットメッセージ (K)
cw2.ジェニーはご機嫌ななめ (N)
2.モノクロームエフェクト (K)
cw1.エレベーター (K)
cw2.おいしいレシピ (A)
3.ビタミンドロップ (除外)
cw:引力 (除外)
2004年には、この他にも
コンピュータードライビング (N)
イミテーションワールド (A)
カウンターアトラクション (A)
ファンデーション (K)
Perfume (K)
といった楽曲がライブで披露されています。
かしゆかの歌声、が全国インディーズ期前期から後期、ションションションの時代までほぼ一環してPerfumeというユニットのイメージを象徴していることがお分かりいただけるか、と思います。
全国インディーズ期と現在を分けるもの、サウンドも時代を追って変化し続けているし、もちろん3人のキャラクターも、ファンが「Perfume」から感じるイメージも変わり続けているのですが、楽曲レベルで考えるなら、分かりやすく歌詞の作者が違う、ということを挙げられます。
みなさんもご存知のように全国インディーズ期はそのまま「木の子」さんの時代、ということになります。
木の子さんの歌詞、というのは非常に内省的であり、誰かに語りかけるような意味合いでの独白ではなく、自分の思考の海の中に潜り込んで底から言葉を拾い上げてくるような独白であり、一人称で語られる小説の叙述部分が、会話文無しでずっと続いているような印象を受けます。
しかし、内省的で、孤立した自己の中だけの問題のように見えて、その中で語られる言葉には社会に対して堂々とコミットメントする普遍的なテーマが潜んでおり、決して閉じられた狭い世界の風景だけではない、広がり、を感じます。
木の子さんの歌詞の中では、思春期を生きる少女たちの目から見た過酷な現実の姿が語られています。
窒息しそうで カラフルな心が
外見変えても 見つかる訳もなく (A+K)(モノクロームエフェクト)
上へ参ります 四階痛み売り場です
人を信じれず 怖さ覚えることでしょう (N) (エレベーター)
小さなこの手で 何を守れるの?
笑顔で嘘つき お遊戯を踊る (K+N)(ビタミンドロップ)
ファンデーション 荷物持ったまま戦えない (K)
ファンデーション 嘘にばかり甘えた (A)
ファンデーション 心にまで化粧してた (N)
ファンデーション 逃げるには早いから (K)(ファンデーション)
中田さんによる、過度に感情を込めないスタイルでの歌唱指導は、いわゆるASH式歌唱法とでも呼ぶべき、いかに歌詞に自分の感情を乗せて歌い上げるか、というスタイルにこだわりのあったPerfumeのメンバーにはなかなか受け入れがたいものだった、と伝えられています。
ただ、これら木の子さんの歌詞をあらためて読んでみると、この言葉を、声を張り上げるようにして歌い上げてしまった時に聴くものが感じるであろううそ臭さ、は容易に想像できるのではないか、という気がします。
これらの歌詞は、歌詞としてではなく、言葉、として聴くものに伝えられるべきものであり、歌い上げるのではなく、語りかけるように歌われるべきものであって、中田さんによる歌唱指導、歌唱指導が大げさなら、過度に感情を込めた歌い方への牽制は正しかったのだ、ということが理解できます。
やはり中田さんは誰よりも相棒である木の子さんの歌詞の良き理解者だったのだな、ということも。
この木の子さんの独特の世界観を歌うのにはあ~ちゃんやのっちの歌声ではあまりにもリアルで重く、暗くなってしまいそうです。
かしゆかが全国インディーズ期にセンターと言ってよい役割を振り当てられたこと、には色々な事情、大人の事情があったのかもしれません。
しかし、中田さんは与えられた枠の中で最善の結果を導き出す、頑固で腕のいい職人のように、かしゆかをボーカルの軸に据えた傑作を作り続け、かしゆかも全国インディーズ期のセンター、エースとして見事な歌声を披露しています。
この時代のかしゆかの歌声はどれもが素晴らしいものです。
かしゆかの素晴らしさは、自分の特徴ある声、或いは自分の声を聴いた人が受けるだろうイメージを、利用することはあっても依存することが無い、という部分です。
かしゆかの歌声は、まずちょっと不安定であり、言葉の発音が独特であり、芯のある部分とフワフワと頼りない部分が同居していて、甘く、そして強い。
かしゆかの歌声は、演奏部分でアレンジをほどこさなくても、かしゆかの声を登場させるだけで曲の雰囲気を一変させてしまう強さを持っています。
でも、かしゆかの歌い方そのものは、あ~ちゃんのっちとともに少女時代から鍛え上げたオーソドックスなスタイルのまま。
かしゆかのような「アニメ声」に分類されるような声質であったなら、もっと鼻にかかったいかにも少女キャラクター的な使い方もあっただろう、と思うのですが「JKかしゆか」や「かしゆかばーさん」のようなレギュラー番組内でのお遊びや、BEE-HIVE時代の発表会での紙芝居朗読という場面をのぞいては、歌手としてかしゆかが自分の声に依存しているところは皆無です。
あ~ちゃんのっち、という二人のディーバたちに挟まれて、悩むことはあっても臆することはなく、堂々と自分の立ち位置を確保しているのが、この全国インディーズ期におけるエースかしゆかだったのではないか、と思っています。
彼女の声の中に潜む虚無感のような響き、は甘くフワフワとしたコーティングを通してもはっきりと聴くものに伝わってきます。
中田さんのメロディ、サウンド全体に乗せられた木の子さんの深みのある歌詞を、その世界を描くのに、かしゆか以上の歌い手はいなかったでしょう。
Perfumeの成長とともに歌われる機会も少なくなっていくだろう全国インディーズ期の各曲は、かしゆかが自分のプライドをかけて戦い、勝ち取った「センター」「エース」としてのモニュメントです。
いつかまた、Perfumeがこれらの曲をファンに披露してくれるだろうことを期待してます。
いつかまた、思春期を懐かしく思えるほどに大人になったPerfumeが。
次回のタイトルは、ションションションの時代~シティ 勢力の拮抗 ▽・w・▽