前川清成議員の発言からみる「法律に詳しい」ことと「実務を知っている」ことの違い | 向原総合法律事務所/福岡の家電弁護士のブログ

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参議院法務委員会において、法曹養成制度についてかなり突っ込んだ議論がされていたので、
その議事録を興味深く眺めていました。
 
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kaigirok/daily/select0103/177/17704140003006a.html

私の出身高校(関西大学第一高校)からは珍しい、弁護士としての先輩です。
高校在学中に、「本校OBの弁護士」という触れ込みで、若手弁護士が講演に来られました。
それがおそらく前川先生じゃないかなと思います。

それで「弁護士ってカッコイイなー」と思ったのが、自分が弁護士になったひとつのキッカケでした。

そのような縁と、法曹養成関係に一家言もっておられるので、かねてから注目させていただいておりました。

そんな前川議員の発言の中で、私はここにとても共感しました。
-------------(以下引用)-----------------------------
その法科大学院の教育の質の問題に関して、是非今日は議論をさせていただきたいのは教員のことです。
文科省の専門職大学院設置基準、これによりますと、法科大学院、これらの文科省の省令等によりますと、
法科大学院の教員についてはおよそ二割以上が実務経験を有する者であれば足りると、こういうことになっ
ています。ですから、極端なことを言うと八割は学者でも構わない。つまりは、裁判所に行ったことがない人
でも構わないということです。
 じゃ、残りのおおむね二割の実務家教員、これについても昨日ちょっと文科省と議論をさせていただいたん
ですが、その際伺ったのは、この実務家教員、二割 の実務家教員は、司法試験に合格して司法修習を経て
裁判官や弁護士や検事になった人たちだけには限りませんと。およそ何らかの法律あるいはその周辺の業
務 に携わっていた実務経験があれば、例えばですけれども、司法書士さんとか行政書士さんとか社会保険
労務士さんであっても、その法科大学院が必要だと認めれ ば実務家教員になるということなんですね。
 そもそも法科大学院というのは、裁判官や弁護士や検察官を養成するプロセスとして設立された。法科大
学院を経たら、司法制度改革審議会の最終意見書の中 では、法科大学院修了者のおよそ七割、八割は司
法試験に合格する、そういう教育水準を目指すんだと、こういうふうに位置付けられています。にもかかわらず、
この実務家教員が二割であったら足りると。しかも、その二割も法曹三者に限らなくてもいいんだと。これは
私は、法科大学院の在り方としてどうなのかと 常々疑問に思っています。
-------------(引用ここまで)-------------------------
意外に思われそうですが、「法科大学院は実務法曹養成機関」と称されていながら、法科大学院を中心に
なって運営しているのは、実務に出ていない学者さんです。
私が経験した範囲で一番驚いたのは、民法学者さんなのに登記簿の記載内容がわからない先生がいた
ことでした。それぐらい実務に疎い先生がいらっしゃるのも事実です。

もちろん、学者さんは真理の探求という大きな役割があります。真理の探求だけなら、登記簿を読める必
要はあまりないといえます。
一方で実務家は事案解決のために情報を取得し何らかのアクションを起こす仕事です。そのためには、
登記簿も当然ながら、様々な「生の資料」から情報を獲得し、事案解決の糸口とすることが要求されます。

学者と実務家は、役割が違うと言わざるを得ず、ここに「実務と研究の乖離」が生まれます。

普通の人から見たら
「法学部(法科大学院)の教授さん?だったら法律詳しいですよね」
「なにかあったら相談したいな」
と思うのは、むしろ自然です。

法学部教授が「法律に詳しい」というのは間違いありません。
しかし、「法律に詳しい」ことと、何らかの法的事案の解決ができることとは、まったく異なるのです。
※大体、法学部(法科大学院)教授であっても、上記引用部分にもあるように、弁護士資格を有していな
い人が大半ですから、弁護士業務をやったら弁護士法違反で捕まります。

民法に詳しいです!といっても、具体的な事案にぶち当たったときに、じゃあこの事案ではどういう解決
になる見通しなのか、というのは、集まった証拠などの様々な情報から判断することになります。そして
当方が立証責任を負う証拠については、それをいかに集めるかのノウハウも必要です。

また、依頼者からすれば、費用がどうなるのかについても関心が高く、弁護士はこれを澱みなく説明す
ることも要求されるでしょう(費用の点でグジャグジャになってたら、依頼者は怖くて頼めないでしょう)。
実務法曹の中でもとくに弁護士には、こうした営業センスも問われると思います。

こうしたノウハウや営業センスは、学者さんの世界ではまったく必要ありません(それが悪いということ
ではなく、役割の違い)。しかし、実務では必須の知識ないし能力です。

「実務法曹を育てる」というのであれば、こうしたノウハウなんかをもっと教えなければ意味がないので
す。しかしながら、学者さんは、そういうことを意識する世界ではないので、そもそも教えられないのです。
もちろん、実務が学者さんの学説や見解で動いているケースもないわけじゃありませんが、そういうのは
最先端の議論が熱く戦わされているようなところであり、普段の業務とは少し離れたところに位置します。

したがって、学者さんが中心になっている法科大学院制度というのは、結局なんのためにあるのかよく
わからない、少なくとも、実務法曹を養成する場としては機能していないと言わざるをえないのです。

「法律に詳しい」けれど「実務を知ってる」わけじゃない学者さんが中心となって運営される法科大学院。
しかも、学者さんが詳しい「法律」は1科目であるのに対し、司法試験は1科目にとどまらない。
試験にも使えず、実務にも使えない法科大学院制度。
まさに、帯に短しタスキにも短し、というのが法科大学院の実情だと思います。

前川議員には、給費制に関しても一家言おありで、私とは少し見解を異にするのですが、ただ、議員は
以下のとおり発言しておられます。これは注目すべき発言です。
-------------(以下引用)-----------------------------
金持ちの子供でしか弁護士になれない最も大きな問題は、私は、司法試験に合格した後の司法修習
生の給料が貸し与えられるものなのかくれるものなのかではな くて、むしろその前提、法科大学院
学費の問題。大学を卒業して、国立大学であればおよそ年間八十万円、私立大学であればおよそ
百三十万円、原則三年間、 この授業料を払うことができる家庭の子供でないとそもそも司法試験
を受験することさえ認めない、この仕組みはやっぱり間違っている。
この法科大学院を卒業 しない
と司法試験を受けさせない仕組みだとか、あるいは法科大学院の教員の八割は学者であっても構わな
いとか、ちょっと余りにもその法曹養成が大学教員の側の既得権益を擁護する形で私はねじ曲
げられてしまったのではないか

-------------(引用ここまで)-------------------------
私は、この発言に全面的に賛同します。
要するに、日弁連は、合格後の修習生の給費制のことばかりやっているけれど(注:私も給費制維持活
動にはかなり深く関与させていただいています)、それより法科大学院のほうがカネ喰い虫なのだから、
そっちこそなんとかするべきではないのか、という意味です。
日弁連は、法科大学院については「法曹養成の中心とすべき」と明言していますが、弁護士の大半は
法科大学院なんて間違っている、と思っていると理解しています。
前川議員のこの発言が、弁護士の意見を代表するといっても過言ではないと考えます。

最後はかなり話がそれてしまいました。失礼しました。