「前から何度も看護婦さんになることを思っては挫折してきたわ。でも今度は1年間大学の合間に勉強しようと思ってるの。命に関わる仕事だからあたしにはム リだと言われちゃうと思うけど、本気でそう思ってるの。あたし、入江くんにつりあう奥さんになりたいの。だ、だからそれまでは入江くんに会うまいって心に 誓って、ここで独り立ちできるよう修業するつもりなの」

琴子がそう言うと店主が「えーーーーっ叫び」と悲鳴を上げた。

引き取った方が良さそうだ。。。

「それじゃ一生会えないことになるかもな」

今回収しないと・・・。

琴子は「えっ・・・・・・」と絶句した後「ひどいっ・・・」と泣きそうな顔をした。

「あたしは・・・あたしは・・・入江くんに相応しい・・・

ブツブツ言う琴子の頭に手を置いて「頑張ったな、色々」と労を労った。

「頑張ってみろよ、看護師。それでこそ琴子だよ」

誰が笑うか。お前がそう言いだすのをこの1年ずっと待ってたんだからな、俺は。

「い・・・入江くんあせる

琴子が泣きながら胸に飛び込んでくる。

ようやく掴まえた。俺の琴子・・・。

「帰ってこいよ、そろそろ」

もう離せないと思った。

このまま今すぐ家に帰って抱きしめて・・・抱いて・・・俺の隣に居るだけでいい。

もう一人きりのベッドで眠るなんて考えられない。

お前が・・・

「だ、だって・・・あ、あたし・・・ま、まだ・・・

帰ると言わない強情な琴子に、最後の切り札を切る。

「認めるよ、俺の立派な奥さんだって」

「帰っていいの?」

「ああ」

帰って来いよ、琴子。俺の腕の中に・・・このままここに居ろ。

「あたし・・・本当はね、本当は入江くんに会いたくって会いたくって死にそうだったの」

分かってるなら、強情張るな、この馬鹿琴子。俺だって気が気じゃなかったんだ。

「知ってるよ、そんなこと」

お前の事なんか手に取る様に分かる。はっきり言って3日が限界だったんだろ・・・。

俺がそうだったように、お前も・・・。もう我慢するな!!

おふくろなんか1日で限界を・・・このまま連れ帰ったら今日はパーティーだなと覚悟した。

「まっ 本当のところ、オフクロがうるさくってしょーがないってのもあるけどね」

そえでも・・・連れ帰らない選択肢はない。

おじさん、あたし・・・

俺の腕の中から店主に話しかける琴子を見つめる俺。

返事次第では・・・と思ったが、店全体の総意の様だ。

言わねーでいい。言わねーでいいって!! いー話じゃねーか えっ 事情は大体分かった。夫婦は一緒にいなきゃいけねーよ。なあ なあ なあ、みんなあせる

店主が涙を流しながら客に訴える。

早く連れ帰れと・・・。

「「「「「「「お、おう」」」」」」」とまるで野球部かの様な店主と客の団結精神。

お前、たった3日で随分と被害を・・・。

俺は琴子の破壊力を再確認した。