スイカの心

テーマ:

納涼祭


テニスの練習の後、家に帰ったらもう琴子が帰っていた。

琴子なら俺の練習後まで張り付くと思っていたのに・・・先日ボールをぶつけられて懲りたのだろうか。

良い傾向だと思いつつも、俺のせいだと責められたら冗談じゃないと思って声をかけないでおいた。

部屋に戻ったら祐樹も居なかった。きっと琴子観察日記を付ける為に琴子を見張っているのだろう。

俺は裕樹の机の上にある観察日記を開く。

すでに2ページ埋まっているそれは、嘘偽りはないが・・・俺が琴子にボールをぶつけた証拠が有り有りと残っており、それ以上見る気になれずに日記をもとに戻す。

部屋のクーラーをつけたが・・・それでも汗のべたつきはなくなる事がなく、俺はクローゼットを開けると着替えを取り出して下に下りた。

まず洗濯物を出し、そして脱いだ服も洗濯籠に入れてシャワーを浴びる。

ようやくサッパリしたが、何故か爽快な気分になれない。

テキストでもするかと2階に戻ったが、何故か集中出来なかった。

昔ならこんな薄いテキスト、今日まで残してなかったハズだ。

去年と今年は大分違う。

それは俺も認めざるを得ない。

悔しいが・・・去年の今頃、自分がどうしていたかも思い出せない俺になっている。

いや、今とそんなに生活は違わないハズだ。

テニスの練習をして、夏休みの宿題を終わらせて、本を読み・・・。

気晴らしに本でも読むかとさっき寄り道して買って来た文庫本を手に取ってリビングに下りた。

きっともう夕食に呼ばれるだろうと思ったから・・・。

そう思ったが、当てが外れて(?)キッチンが何やら騒がしい。

またも琴子が何かやらかした様でいきなり謝られた。

「ご、ごめんね入江くん。わざとじゃないのあせる」と言われて、俺の『何か』を壊したんだと思った。

「何したんだよっむかっ」とついきつめの口調で問うと、琴子は「あの、あの、あの・・・」と言いよどむ。

そこへおふくろが「二人共!! スイカが割れたくらいで騒がないのっ」と俺らを諫めた。

二人共・・・って俺と琴子じゃねーよな!?

勝手にセットにすんなって言おうとしたら、裕樹が「ごめんなさい」と謝ったので俺じゃなく裕樹と琴子かと合点がいった。

何となくモヤモヤする。何故だろうか!?

何か・・・スッキリする物が欲しい。

冷蔵庫を開けようとしたら、おふくろから「お兄ちゃんはスイカ食べないわよね」と聞かれた。

さっきシンクに置いたスイカの事かと理解して「早く食った方がいいなら食べるよ」と言うと、おふくろの顔がほころぶ。

「あら、良かった。お祖父ちゃん喜ぶわ。直樹の感想が一番喜ぶから」と言われて九州にいる祖父ちゃんを思い出す。

頑固祖父さんだが、俺の事は目に入れても痛くないくらい可愛がってくれた。

そのせいでキュウリ嫌いだけどな・・・。

それは置いておいて「祖父ちゃんが育てたスイカだしな。食うよ。切ればいいのか!? おふくろじゃ大変だろ、あの重さ」と言うと笑顔で「助かるわ」と言われた。

そう、これが去年までのやり取り。

でも・・・今年は煩いBGM付き

スイカをまな板の上に置き、琴子がヒビを入れた場所から包丁を入れていく。

スイカはどれだけ汁を湛えているのかまるで血の様に汁が溢れてきた。

なんだろう、この高揚感。

琴子に背中から声をかけられ「入江くん、ありがとう」と礼を言われてドキッとする。

真っ赤なスイカと琴子。

またモヤモヤする・・・。

俺は何も考えるまいとスイカを切る事だけに専念した。

作業を終えて洗面所で手を洗っていると裕樹が俺を探しているのが目に入った。

「ねえ、お兄ちゃん。キッチンへは何しに行ったの??」と聞かれて・・・咄嗟に言葉が浮かばなかった。

俺は何をしに・・・!?

ただ、キッチンが騒がしいと覗いただけ・・・か??

でもそんな事は去年の俺なら・・・と、考えて去年は騒ぐ対象が居なかった事に気付く。

何から何まで去年と違う今。

モヤモヤする。

俺は裕樹の答えに「別に」と答えていた。

特に用はないけれど、男子禁制の場所じゃない。

現に俺はスイカを切った訳だし・・・。

裕樹の疑問は特になかった様で麦茶を飲むかと聞かれたので飲む事にした。

麦茶を飲むためだけにリビングにとどまっていたら、何故か琴子が持って来る。

「はい、入江くんドキドキ」と渡されて「コーヒーにしておくんだった」と本音が漏れた。

琴子は「待ってて、今から淹れてくるねラブラブ」とキッチンへダッシュする。

俺はその後ろ姿を目で追いながら麦茶を一口飲んだのだった。
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