住み込みというのだから夕方からの勤務と予測して、家に帰りがてら学校周辺のホテルを覗いてみた。

流石にいきなりフロントはないだろうと考えて、アルバイトを探しているフリをしてこの辺で住み込みしながら働ける場所があるか女性スタッフに聞いてみたが聞いた事がないとの事だ。

しかも俺が探している訳じゃないというと明らかに肩を落とす。せめて『俺の彼女』と伝えて奈落に突き落としてやるべきだったろうか。

それくらい俺はムシャクシャしていた。琴子の事だから、絶対俺を見つめられる範囲で働くと踏んだんだけどな。

家に帰ってもう一度条件を絞り直そうと思い、諦めて家に帰ると機嫌が悪いおふくろに出迎えられた。

お兄ちゃん!! いつになったら琴子ちゃん帰ってくるの!?」と俺に聞かれても分かるかっむかっ

「その内連絡あるだろ」と言っておふくろの横を通り過ぎ、自分の書斎に帰った。

PCを起動させているとドアがコンコンとノックされて裕樹が入ってくる。

「お兄ちゃん」と呼ばれて「琴子から連絡来たか!?」と鎌をかけて聞いたら違った。

「ううん」と言いながら首を横に振る裕樹に内心落胆する。・・・分かっているが、期待しただけに落差が激しかった。

「じゃあ・・・」と言いながら、何故裕樹がこの部屋に来たのか自問自答する。答えは明白だった。

「・・・裕樹のせいじゃない。琴子が自分で決めた事だから」と言い「すぐに戻ってくる」と言って裕樹を慰めた。

俺の希望でもあるんだが、そんな事は知らない裕樹は「そーだよね」と明るい顔になり「琴子がお兄ちゃんと離れられる訳ないもんね」と嬉しそうに言う。

「ああ」と返事をし、椅子から立ち上がって本棚から医学書を1冊手に取りながら「あいつの事だから何事もなかった様に『ただいまー』って帰ってくるに決まってる。それに大学でも会うから・・・その内話せるだろ。おふくろが余計な事しない内に何とかするから」と言うと、裕樹は「うん、分かった。明日探しに行こうと思ったけど家で大人しくしておく」と寂しそうに言った。

裕樹も遊び相手が居なくて寂しいのが分かる。琴子は俺だけじゃなく、おふくろや裕樹とも仲良いからな。

「悪いけど・・・」と言ったら「あっ 邪魔しちゃってごめんね。お兄ちゃんはまだお勉強!?」と部屋を出て行こうとした裕樹に「そう。今から論文の仕上げしたいから」と嘘をついて部屋から追い出した。

もう暗記している医学書を机に置き、立ち上げたままのPCをネットにつなぐと検索をかける。

『東京都内 住み込みアルバイト 飲食店』

やはり大学で見た情報と同じ。都内がいけないのだろうか!?と住居の世田谷、近隣の杉並・目黒・渋谷に絞ってみるとオープニングスタッフ募集の求人も目に入る。

琴子はドニーズでホール経験がある。一応バックの経験も若干あるが、レジは下手だし、接客も上手だとは言えない。

だが、あの食器運びの腕は買われてもおかしくない。・・・試験でそこまで見るかは疑問だが。

一応問い合わせをしてみるかと手帳に控える。

流石に寮母はないだろうとその線を消して、ホテルの従業員と飲食店のオープニングスタッフの2択にした。

その後少し論文を書いてから下に降りると、裕樹だけがつまらなさそうな顔でテレビを見ている。

おふくろは!?と聞いたら部屋に籠ってるそうだ。煩く言われたくないので、そっとしておく事にした。
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