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日本の不妊治療の残念な実態

東洋経済オンライン
 [4/26 07:00]

日本における不妊治療の成功率が、世界で最下位なのには理由がある
(撮影:今井 康一)

昨今「不妊治療の末にようやく子どもを授かった!」という

女性タレントのニュースが後を絶たない。

晩婚・晩産化などを背景に、不妊に悩むカップルが増えるなか、

不妊治療が急速に広まっている。

周囲でも珍しいことではなくなり、

近所の不妊クリニックで治療、と

カジュアルに考える人も増えているかもしれない。


■生殖補助医療の実施件数は多いのに…

いつ終わるかわからない不妊治療は、

精神的にも肉体的にも金銭的にも負担が大きい。

年齢やキャリア、親からのプレッシャーなどが頭をよぎり、

治療に突き進む人もいるだろう。

しかし、意外と知られていない事実がある。

日本では生殖補助医療の実施件数が多いにもかかわらず、

出産率が低いのだ。

世界各国の生殖補助医療の実施状況をモニタリングしている組織

「国際生殖補助医療監視委員会」が実施した調査では、

日本の生殖補助医療の実施件数は60カ国中、第1位だったにもかかわらず、

出産率は最下位の6.2%という

ショッキングな結果が出ている。

つまり日本は国際的に見ると、

不妊治療が世界でいちばん行われているにもかかわらず

「いちばん出産できない国」

ということになる。

いったい、なぜそうなってしまうのか。

不妊治療に踏み切る前に、

ぜひ知っておいてほしいことがいくつかある。


■あまり触れられない
「顕微授精」のリスク

ひとつは「顕微授精」のリスクだ。

不妊治療に用いられる生殖補助医療技術には、

大きく分けて
「体外受精」と
「顕微授精」がある。

体外受精とは
「体外に取り出した卵子に精子をふりかけて、

精子の自力で卵子に侵入して受精させるための環境を整え、

培養液内で受精させてから子宮に戻す技術」
のことをいう。

一方、顕微授精とは
「体外に取り出した卵子に

顕微鏡をのぞいて極細のガラス針で

1匹の精子を人間の手で
人為的に穿刺注入して、

人工的に授精させてから子宮に戻す技術」
である。

ここに自然に受精させる体外受精と、

人工的な手を必要とする顕微授精には

根本的な違いがある。

現在、不妊治療の8割を占めるのは、顕微鏡下で卵子にガラス針を刺して、精子を注入する

「顕微授精」と呼ばれているものだ。

針を刺すことによって卵子に傷がつくのだが、

あくまでも問題はなく、安全だといわれている。

しかし、

卵子に針で穴を開けるのだ。

本当に大丈夫なのかという

単純な疑問が頭をよぎる。

そこで不妊治療についての参考文献を調べてみると、

ある海外のニュースにたどり着いた。

「顕微授精に代表される不妊治療だが、

その不妊治療による妊娠で生まれた子は、

自然妊娠で生まれた子に比べ、

自閉症スペクトラムになるリスクが2倍になる」

このショッキングな記事は、

米疾病対策センター
(Centers for disease
Control and Prevention:CDC)

に所管・公表された

大規模疫学調査による記事であった。

この調査結果は、1997年から2007年にかけて、

カリフォルニア州で出生した590万例の小児に関するデータを基に分析した数字だ。

筆者が知るかぎり、

この報告に関しては

日本では

まったく報道されて

いない。

筆者が調査・取材した

日本の不妊クリニックの多くのケースでは、

不妊治療に関するリスクの

説明は

ほとんどなされておらず、

「顕微授精は安全・安心である」

と患者に伝えていたのだ。


臨床精子学研究の第一人者でもある黒田優佳子医師(黒田インターナショナル メディカル リプロダクション)は、

「欧米では顕微授精によって生まれた子どもには、

自然に妊娠して誕生した子どもに比べて、

先天性異常の発症率が

高い傾向があることが

多数報告されている」

と言う。


■「精子の質」を判断できないクリニックがある

詳しくは『本当は怖い不妊治療』にも書いたが、

日本の場合、

不妊クリニックによっても異なるが、

体外受精や顕微授精の生殖補助医療の費用は、

1回につき約20万~100万円かかる。

国際的に見れば、

もっと高額の国もあるし、

逆に国側が全額を支給する場合もあるが、

費用の面から見ると、

誰でも受けられるものではない。

しかし、筆者が取材した
20~50代の夫婦のなかには、

9つの専門クリニックを回り、

トータルで5000万円もかけて治療をしたが、

それでも子どもを授かることができなかったというケースもあった。

ある夫婦が語る。

「前に通っていた不妊クリニックで

『精子は大丈夫です。

運動率、数ともに完璧です。

受精しない原因としては、
加齢に伴う卵子と子宮の劣化、

いわゆる“老化卵子”だから』

と指摘され、顕微授精をしないと

受精しませんよと言われました」
(40代の夫婦)

ちなみに「老化卵子」とは、

加齢により卵子の質と量が低下することである。

具体的にいえば、年齢とともに

卵巣組織単位重量あたりの

「原始卵包(将来成熟した卵子に成長する可能性を備えた未成熟な卵子をひとつ入れている袋)」

の数が急速に減ることだ。

筆者の取材では、

不妊クリニックに行くと、女性側に問題があり、

「卵子の老化」を原因にされることが非常に多い。

しかし、黒田医師は

「不妊の40~50%は
精子の“質”で決まります」

と言う。

先の40代の夫婦に関しても黒田医師が診断してみると、

夫の精子は
「先天性先体欠損の精子」であり、

精子に問題があったことが判明した。

全体の90%以上に「精子頭部空胞」も認められ、

異常な頭部構造を持っている精子だったのだ。

言葉にすると少々専門的で難しいが、

「先体欠損」とは卵子に入り込もうとする精子の先体が欠損しているということだ。

つまり、前に通院していた不妊クリニックで

「精子の運動率と数と共に完璧」と言われたとおり、

見た目の精子は数や運動率はいいのだが、

不妊に40~50%も影響を与える

精子の質までは診断できていなかったことになる。

この事例のように、

見た目では精子は正常であり、

卵子のほうに問題があると言われるケースは多い。

そして不妊の真の原因が解明されないまま、

何度も顕微授精が繰り返され、

結果、妊娠に至らない。

これが、

日本の不妊治療による

出産率が

低くなる1つの要因ではないだろうか。

不妊治療はブーム的に急速に広まっており、

2008年時点の日本産科婦人科学会のデータによると、

不妊治療患者は約120万組いるとされているが、

現在ではさらに増加し、驚くべき数字になっていると思われる。

心身にも金銭的にも負担の大きい不妊治療。

「みんなやっているから」
「一刻でも早く」

と突き進む前に、

もっと現実を調べるのがよいのではないだろうか。