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●ふざけるな、マイナンバー!動くカネは4兆円以上、
「完全なる徴税」のためだと?
役人がつくった、役人だけがトクをする制度

現代ビジネス
 [10/30 11:01]

各省庁が天下り法人や専門部署を乱立させている〔PHOTO〕wikipediaより

「なぜ導入するのか。

それを明確に説明できないのは、

役人のための制度だからですよ」。

ある内閣府の職員は、そう笑った。


利権はびこるマイナンバー。


発覚した贈収賄事件は氷山の一角に過ぎない。


「やっぱり」。

事件の報に接した際、ほとんどの人はそう思っただろう。

10月中旬から「通知カード」の交付が始まったマイナンバー制度の導入に絡み、

厚生労働省職員が関わる贈収賄事件が発覚したのである。

マイナンバーに詳しい、白?大学法学部教授の石村耕治氏が言う。

「今回の事件の背景にあるのは、

制度導入にともなう『利権』に他なりません。

導入が決まった'11年からずっと、莫大な予算を狙って、

シロアリのようにIT企業やシステム会社が群がり続けている。

そしてその金主である役人が、

彼らから利益を享受しつつ、

自分たちの

都合の良いように

制度を進めているのです」

収賄容疑で逮捕されたのは、

厚労省情報政策担当参事官室室長補佐の中安一幸容疑者(45歳)だ。

'11年、医療分野などにおける情報共有システムの設計案を公募した際に、

都内のシステム会社から賄賂を受け取り、

受注できるように取り計らったとされている。

逮捕容疑はこのシステム会社の社長から100万円を受け取ったというものだが、

実際の賄賂額はさらに膨らむものと見られている。

「中安さんは、厚労省内では有名人でした。

いつもブランド物のスーツで身を固め、冬は地面に着きそうなほど長いコートを着てのし歩いていた。

ヤクザ映画のキャラクターのようなルックスで、

見た目通りに押しが強く、弁も立った。

『医者や医療関係者にパイプがある』と、よく吹聴していました」
(中安容疑者をよく知る厚労省職員)

中安容疑者は、埼玉県さいたま市内の自宅で妻、幼い娘と暮らしていた。

出勤のため大宮駅に向かう際にはタクシーを呼びつけていたといい、

近所の住民の目からは、かなり羽振りが良さそうに見えたという。

「高校卒業後に国家公務員Ⅲ種に合格し、兵庫中央病院の事務官として採用された容疑者は、いわゆるノンキャリ。

当時は病院の受付や物品購入といった仕事をしていたそうですが、

そこから頭角を現し、'05年に本省へ。

そして'07年には、社会保障担当参事官室に配属になりました。

『ITの知識がずば抜けている』という評判でしたが、

病院事務として働いていた時の実体験を、

持ち前の強引さで押し付けるのが中安容疑者のスタイル。

現場の知識が何もないキャリア組の職員は、

彼をコントロールできず、

野放しになっていたのです」(全国紙社会部記者)

しかし、マイナンバー制度がいよいよ始まるというこのタイミングで、

現役の職員が逮捕されるというのは、

間が悪いどころの話ではない。

空耳で「マイナンバー」が「ナンマイダー」と聞こえるという川柳がある。

国民からすれば、

役人が甘い汁を吸っているなんて、

汚れた制度は

もはやナンマイダー(お陀仏)に

してほしいという気分がいよいよ強くなっただろう。


今回の贈収賄事件は、

「氷山の一角」

に過ぎないと語るのは、

内閣官房職員の一人である。

「マイナンバーには潤沢な予算が使われている上、

取り引きする業種もほぼ IT関連業界に集中しているため、

役人と業者の

癒着が非常に起こりやすい。

システム開発案については公募という形を取っていますが、

担当者も受注の経緯もその時々によって違い、

そこには

何の透明性も

ない。

中安容疑者以外にも、

どさくさ紛れに

私腹を肥やしている人間が、

霞が関にも、

地方自治体にも

いるのは間違いない」

なにしろ、役人たちやそれに群がる業者たちにとっては、

全国民、約1億3000万人すべてが

ターゲットという

史上最大規模の

利権である。

IT産業アナリストの佃均氏が語る。

「マイナンバーに費やされる予算は、

国のシステム開発に
約3000億円、

自治体のシステム対応のための補助金として
約2000億円、

合計で約5000億円と言われています。

ただし、ゆくゆく民間でも活用されていくことを考慮すると、

波及効果は3兆~4兆円か、それ以上の市場規模になると思われます」

この巨大マネーが、

制度に関わる、あらゆる省庁・役所に流れ込む。

制度の仕組み作りと法律の作成は内閣府。

番号の通知や自治体での運用を管轄するのは総務省。

法人番号の管理や個人の税収に関する情報の一括化は国税庁(財務省)。

社会保障に関する分野は厚労省。

さらには、国民向けの窓口となる全国約1700の地方自治体……

といった具合だ。


まさに、

「役人がつくった、

役人

だけが

トクをする

制度」

である。

「主役はあくまで

役人たちというわけで、

完全に

国民不在です。

役人が限られた業者と

癒着して、

そこに巣くい、

『3兆円産業』などと称している。

言語道断と言えます」
(前出・石村氏)


この制度の

恐ろしいところは、

いったん導入されてしまうと、

制度が中止されない限り、

半永久的に税金が

注ぎ込まれ

続ける

ということだ。

かつて'02年に導入された住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)は、

400億円の予算を投入しながら普及率がたったの5%。

にもかかわらず、

現在でもその維持のため、

毎年100億円以上が

費やされているという。


「マイナンバーは最初から全国民をネットワークに取り込もうという、

住基ネットよりはるかに巨大なシステム。

ですから、

その維持費や

トラブルが起きた際の

復旧・改修費用などの

コストは

比較にならないほど

巨額になるでしょう。

それを見越し、

マイナンバー絡みの天下り法人や、

各省庁肝いりの専門業者が

次々と設立されている。

消費増税を実現し、

大物と言われた財務省の勝栄二郎元事務次官も、

大手のIT企業に天下りしています。

底なしに税金を吸い込んでいく、

ブラックホールのようなシステムなんですよ」
(経産省関係者)


マイナンバー制度に関し、

政府はこれまで「都合がいいこと」だけを喧伝してきた。


国民すべてに12ケタの「背番号」が割り振られることで、

個人の認証が容易になり、年金受け取りなど社会保障関連の手続きが簡単になる。

引っ越しなど、各種申請に伴う煩雑な手続きも不要になり、便利な世の中になる、というのがそれだ。

だが、そうした聞こえのいい話は

建て前に

過ぎない。

マイナンバーの導入目的は、

最終的にその番号と国民一人ひとりの銀行口座などを紐付けし、

監視し、

庶民の些細な

税金逃れや、

へそくり的な資産隠しすら

許さない、

「完全なる徴税」社会を実現することにある。

元国税庁職員で税理士の赤池三男氏が語る。

「ゆくゆくは、おかしな点があればすぐに税務署から『税金を納めなさい』という連絡が来ることになります。

口座をいくつ作っていても、逃れることはできません。

マイナンバーとは、預金だけではなく、株や不動産といった有形無形の資産を国が把握し、

一銭たりとも

税金の取り漏らしが

ないようにするための

制度なんです」

国民からより広範に、

より厳密に税金を徴収するため、

税金を投じてシステムを開発する。

システムと制度を普及し、

維持するために、

今後さらに

巨額の税金が投入され続ける。

そして税金が流れる先は、

役所と親密な

業者と天下り団体で、

その一部が中安容疑者のような

不良役人たちの懐に転がり込む-。

これがマイナンバー制度の本質だ。


国民からすれば

三重、四重に

税金を搾り取られたうえ、

結果は「税金の取り立てが

より一層、厳しくなる」

という笑えない事実……。

マイナンバーは

害なんだ、

マイナンバーは

災難だ、

我々はそう呟き耐えるしかない。

今後、マイナンバー導入に伴う

混乱と混迷は、

ますます広がっていくと思われる。

贈収賄事件の裏で、茨城県取手市では、

機械で発行した住民票に誤ってマイナンバーが記載され、

外部に流出するという事件が起きていた。

市の委託業者が機械の設定を間違えたことが原因で、

制度がまだ正式に稼働してもいないというのに、

個人の番号が外に漏れ出てしまったのだ。


この件について、マイナンバー制度推進を統括する、内閣官房社会保障改革担当室の浅岡孝充参事官補佐はこう話す。

「本来であれば、あってはならないことです。

しかし、制度の根幹を揺るがすような話ではない。

人間がやる以上、運用の中で事故が起きることは避けられません。

車の運転をしていれば、自分がきちんとしているつもりでも事故に遭う可能性があるのと同じことです」

とは言え、事故ではなく、

悪意ある存在が、

漏出したマイナンバーを

犯罪に悪用することもあり得るのではないか?

「それは、町を歩いていたらナイフを持った人間に刺されました、というのと同じ話です。

店を出たら人を刺すかもしれないから、包丁を売ることを規制しようというわけにはいきませんよね。

それに制度的には、もし漏洩しても大きな問題にならないように設計しています。

何か事件は起こるかもしれませんが、それが許容できるレベルのもので収まるようにしたい。

そう考えています」


事故は滅多に起こらないし、

起きても大したことにはならない-。

果たして、そう簡単にいくだろうか。

社会保険労務士で北見式賃金研究所の北見昌朗所長は、こう警告する。

「私は中小企業向けにマイナンバー制度の説明会を行っていますが、

どの経営者も

国のいい加減さに

困り果てています。

たとえば、

国はマイナンバーを各企業で流出しないよう管理しろと言う。

しかしその明確な方法は指示しない。

セキュリティの設備投資にかかるカネは、

中小企業の経営者にとって決して安くないのです。

このまま『よくわからない』という状況が続けば、

ナンバーは必ず流出する。

『しまくる』と言っていいと思います」

本誌も何度か指摘してきたが、

マイナンバーと同種の「社会保障番号」(SSN)が導入されている米国では、'

06~'08年の間に、SSNを盗まれたことによる「なりすまし」詐欺や、

口座からの現金抜き取りなどの犯罪が約1200万件も発生。

その被害総額は、実に年間500億ドル(約6兆円)にも達するという。

ごくささやかな利便性と引き換えに、

税金を吸い上げ、食い物にすること

しか考えていない役人たちに、

自分の資産、

あらゆる履歴、個人情報のすべてを

売り渡す。

そんな制度を、いったい誰が喜ぶというのか。


マイナンバーなど、決していらない。

今こそ大きな声を上げなければ、

すぐに取り返しのつかないことになるだろう。

「週刊現代」
2015年10月31日号より