第10話 無言の帰宅
母と共に私達家族は家路へと車を走らせた。
母は葬儀社が用意した寝台車で。
私は父が運転する車で。
父が運転するその横で
私は流れる景色をずっと眺めていた。
何度も何度も通った道を
何度も何度も眺めた景色を。
母がいる病院へ向かった道のりを
今は何も言わない母と共に
私達家族は無言のまま家に向かっていた。
家に着いたのは私と父が先だった。
母の乗った寝台車はまだ到着していなかった。
父と私とおばは母が帰ってくるまでに
布団を用意したり
旅立ちの用意をしたりして
バタバタとしているところへ
母の到着を知らせるチャイムが鳴った。
「この度はご愁傷さまです。
これからK様をお運びします。」
そう言って葬儀社の人は
表情一つ変えることなく淡々と母を和室まで運び
しばらくお待ち下さいと言って和室のドアを閉めた。
少ししてからその扉は開けられて
やっと母と対面することが出来た。
母は眠っているかのように横たわっている。
今にも起きてきて言葉を発しそうなくらい
いつもと変わらない表情だった。
「お母さん」
いつものようにそう呼びかけてみた。
え?なぁに?
そう答えてくれない。
もう答えてくれない。
もう私の名前も呼んでくれない。
「お母さん」
もう一度呼んでみた。
でももう返事をしてくれない。
そっと母の頬に触れてみた。
もう温かくない。
もう体温が感じられない。
「・・・お母さん・・・」
初めて涙がこぼれた。
苦しい程悲しみがこみ上げてきた。
俯いた顔から涙がとめどなく流れ落ちて
私の膝にぽたぽたと落ちていった。
悲しくて悲しくて胸が苦しかった。
もう本当に死んでしまった。
本当に死んでしまった。
この現実を初めて見せつけられたような気がして
どうしても涙を止めることが出来なった。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
どうして母は死んでしまったのだろう。
ここに母は横たわっているのに。
大好きな家にやっと帰ってきたのに。
声を殺して私は泣き続けていた・・・・・