第9話 涙 | 笑顔とありがとうを~大切な人たちへ~

第9話 涙








母のいる霊安室へと向かった。


父と妹と義弟と甥2人とおば、そして私で。


そこは地下にある寂しい場所で


以前妹と部屋の前までは来たことがあったが


今初めてその扉の向こうに


私達は足を踏み入れようとしている。






重厚なその扉を開けてすぐ正面に


母は白い布をかぶせられ


その上には花が供えられていて


母が横たわるその横にもいくつかの花が供えられていた。




その部屋には


主治医の先生と担当看護師のBさん


そして看護師長さんが


私達が来るのを待っていた。





「この度は・・・ご愁傷さまです・・・


こちらでご焼香を・・・・」




そう先生に促されて


私達は一人一人焼香を始めた。






私はその時にでもまだ


母が亡くなった実感なんて何も無かった。


母の顔は白い布で隠されていたし


それが本当に母なのか・・・


と、信じられなかった。


だから涙は出なかった。







「おばあちゃんどうしたの?」




甥の一人が無邪気に妹に尋ねる。




「おばあちゃんはね・・・遠いお空に行ってしまったんだよ」




「どうして?」



「もう遊べないの?」





「おばあちゃんはおなかに悪いバイキンが来て


それで・・・お空に行っちゃったの・・・」




「おばあちゃんと遊びたいなぁ・・・」





そう話す甥を見て


初めて私は涙がこぼれた。


その甥は母にとっての初孫で


とっても可愛がっていた子だった。


その子の成長を母はとても楽しみにしていた。


そして4人のおばあちゃんでもある母は


孫達の成長を見たいと


闘病中何度も言っていた。


でもそれさえも叶うことなく


母は逝ってしまったんだ・・・・










焼香が終わった後


葬儀社の迎えがもう外に来ていた。


先生、看護師さんに


お世話になったお礼を言うと


担当看護師さんのBさんは涙を浮かべて


私達に言った。






「本当にお疲れ様でした・・・・


お母様のご冥福をお祈りします・・・・・」





Bさんの涙を見て


私はまた涙が零れ落ちそうになった・・・・






外は春が近いことを知らせるかのような


暖かい風が吹いていた。