第4話 深い眠り | 笑顔とありがとうを~大切な人たちへ~

第4話 深い眠り



あれから母は目を覚ますことは無かった。


今までは小さな物音にでも


目を覚ましていた母なのに


もう目を開けることは無かった。









母はどこに行ってしまったのだろうか。


もう私達とは違う世界へ行ってしまったのだろうか。


そこはどんな世界なんだろうか。






深い眠りに就いている母を見て


そんなことばかり考えていた。










「お母さんよく寝てるね」



「うん」



「こうして話しているのももう聞こえないのかな?」



「どうだろう・・・案外全部聞こえてるかもよ」



「じゃあ悪口言えないね」





そう言って妹と笑った。











それはとても穏やかな日々だった。


嵐の前の静寂なのか


毎日がゆっくりと静かに過ぎて行った。






これから訪れるであろう母との永遠の別れ。


それは奇跡が起こらない限り


変わらない事実。


認めたくなかったけれど


もう認めざるを得ないこの状況。




そんな究極の現実を


目の当たりにしても


私は実感が無かった。


実感を持つことが出来なかった。




ただ目の前にあるこの時間を


淡々と過ごし


自分の役割をこなす。


それだけしか考えられないでいた。






それでも時間は無常に過ぎていく。


母と過ごす時間は


刻一刻と過ぎていく。





それが悲しい現実。


誰にも変えられない現実。





母はただ眠り続けるだけだった・・・・