第2話 母の答え
「お母さん調子はどう?」
いつも変わらぬ最初の言葉を掛けて
妹と私は母の病室へ入った。
母の病室は3人部屋だったが
一般病棟に比べると広々としていてとても快適だった。
「・・・あぁ・・・来たの・・・」
そう言って目を開けた母。
少し眠っていたようだった。
「調子はいつもどおりよ・・・」
ゆっくりと母は起き上がった。
「何か少しでも食べた?」
母は発病した当初から腸閉塞を起こしかけていて
食べ物を口にすることが出来なくなっていたのだが
緩和病棟に来てからは
流動物を少量なら口にしても大丈夫とのことだったので
病院食も出してもらっていた。
とは言ってもほとんど口にすることは無く
もっぱら栄養源は24時間の持続点滴だったのだが・・・
「2,3口だけ食べたよ。」
「そう。あっヨーグルト買って来たよ。」
「ありがとう。」
母にヨーグルトを手渡し、しばらくしてから妹が話を切り出した。
「昨日ねAさん(担当看護師)から一時帰宅してみては?って言われたんだけど
お母さんはどう思う?帰れるなら帰りたい?」
「・・・・・・」
「帰りたくない?」
「そりゃ・・・帰れるなら帰りたいけど・・・」
「少し不安?」
「・・・・うん・・不安だし心配かな・・・・」
「今の生活でも大変なのに・・・お母さんが帰ったらもっと大変だよ・・・」
母の本心はやはり帰りたい気持ちだろうと思う。
でも自分の体がこの状態で家に帰るということは
家族の負担が増えるということで
母はそのことが心配だったのだろう。
「そんな心配は今しなくていいよ。
お母さんの気持ちを聞かせて欲しいんだよ。」
「・・・・・・」
母は黙り込んで考えていた。
私と妹はなす術も無く
ただ母の答えを待つしかなかった。