第12話 話し合いⅢ | 笑顔とありがとうを~大切な人たちへ~

第12話 話し合いⅢ

私達はこれから必ず訪れるであろう


母の最期を考えられずにはいられなかった。



母の最期…



母の…





今まではぼんやりとしか考えた事がなかったが、


急にそれがはっきりと見えて、

私達の目の前で待ち構えているように思えた。





私達が押し黙っていると

先生は様子をうかがう様に話しを続けた。




「それから…

ここ緩和病棟では延命措置を取らない方針なんですが、

お母様に何かあった場合延命措置をご希望していますか?」




延命措置?




それは心臓マッサージをしたり人口呼吸器を使ってする、

ドラマなんかで見た事あるあの延命措置?




それをするかしないかを

今この場で私達が答えるの?






「御本人やご家族の希望があれば延命措置もします。


ですが、お母様の身体には苦痛も伴います。


御本人の意思は聞いておられますか?」





母の意思?




お母さんの?




本人に聞くの?




どうやって?

あのお母さんにどうやって聞いたらいいの?

そんな残酷な話。






「まだその事まで本人とも家族でも話した事がありません。

ですから一度私達と父とで話してみたいと思います。」



そう答えるのが精一杯だった。



「解りました。」と言って、

W先生はもう一つ私達に質問した。


「こんなお話をするのはなんなんですが…


お母様が万が一お亡くなりになった後


解剖して癌の原発巣を特定する事もできますが

どうなさいますか?」





母はこの時点でも癌の原発巣は不明のままで、

以前いた大学病院でもこの病院でも検査だけでは

どうしてもわからなかった。



原因をどうしても知りたいならば

死後解剖するしかないと、言われていた。




私自身、母の命を奪おうとしている悪魔が

どこに始めは巣食ったのか、どうやってひろがっていったのか…


真実を知りたい気持ちがあった。


いずれやってくるであろう母のいない時間に、

真実を知らないままでいられる自信が無かった。




延命措置。


死後解剖。



その二つについて


私達家族で話し合い


後日お返事します、と言って


先生との話し合いを終えた。