第2話 選択 | 笑顔とありがとうを~大切な人たちへ~

第2話 選択

「ちょっといいですか?」

そう呼び止められたのは、病棟の看護師長さん。

普段は余り接する機会はないが

なにかと母のこと、

そして私たち家族のことを気に掛けてくれる方だ。



「こちらでお話しましょう」

そう言って通されたナースステーションの中。

何を話すのかどきどきしながら

私は椅子に腰掛けた。





「今日の付き添いはお姉さんですか?

いつも皆さんで大変だと思います・・・」


「いえいえ・・・」

「お母さんのことなんですがね・・・

抗がん剤の治療を始めてから一度検査をしました。

効いているかどうかの検査だったのですが・・・」


「はい・・・」

「結果から言うと・・・

余り効果は無かったようなんですね・・・」


「・・・・」

「それに・・・これ以上治療を進めると

お母さんの体の負担が大きくなると思われるんです・・・」


「・・・はい・・」

「そして・・・これからのことなんですが

この先は痛みを緩和したり、辛い症状を緩和したりする

緩和病棟の方での治療がよいのではないかと思うんです」

「一度ご本人、そしてご家族のほうでお話になられたらと、思い

今日お話したんです。」




緩和病棟・・・・

ついにそのときが来たのか・・・

ついに・・・・

もうそこまで病状は進んでしまった・・・


頭の中が朦朧となり

体の力が抜けていった。



「わかりました・・・

一度家族と話してから、母にも伝えます・・・」



そう答えるのが精一杯だった。












緩和病棟。

ホスピス。

最期を過ごす場所。

そこで母は、最期を迎えるのか・・・

もうそこにしか行く場所は無いのか・・・

そんなところ行かせたくない!!

ホスピスなんて

緩和病棟なんて

どうして母が行かなきゃならないんだ!!

どうして

どうして母が・・・・





そう叫びたかった。

そう叫んだら

何かが変わるような気がした。


でも叫んだって何も変わらない。

この現実からはもう逃げられない。






付き添いの交代にやってきた

おばと妹の姿が見えて

私は少し冷静になった。

溢れそうになった涙を拭って

おばと妹の所へ駆け寄った。



第3話へ雪の結晶