再度、飼い主様と話し合った。

「もしも助かる可能性がわずかでも

あるのなら、リスクを承知で

オペを希望したい。」

と、お話しされた。


血栓溶解剤は、常時在庫として

置いている薬剤ではなく

納品までに時間を要する。

仮に、もし今手元にあっても

「オペに生存の可能性をかけみたい」

とのご希望。


「判りました。できる限りのことは

やらせていただきます。」

飼い主様の強い思いに

体にスイッチが入ったのを感じた。



オペと決まれば、とにかく集中。

オペをイメージ・・・。



肝臓の数字は、機械で測れる上限を超え

腎機能も低下している。


それでも飼い主様了解の下、麻酔薬を

少量静脈から入れ、器官チューブを挿管し

吸入麻酔薬で維持。


心配していた心電図は、きれいな波形を

描いている。



ピーンと緊張感が張り詰めた空気の中

腹部の皮膚の切開開始。

いつもと違い皮膚もその下の皮下組織も

弾力感がない。

血液の循環が悪いためであろう。


そして腹膜を開けると、やや大きな膀胱が

目に入った。

手術の視野が狭くなるので、細い針で

中の尿を抜く。

茶褐色の尿が抜けた。


獣医師Tommyのブログ「小さな命と向き合って」 4

目指す腹大動脈は、臓器の一番奥

背骨に位置する。

したがって内臓脂肪や腸などは

できるだけ腹腔内からいったん出して、

乾燥を防ぐために生理食塩水をかけた

ガーゼにくるんでおく。


ゲルピーという開創器を用い、腹部を

開いたままの状態にしておく。


さらに奥へ進む。

するとピクン、ピクンと拍動する

約3mmほどの鮮やかに赤い血管が眼に入った。


「これだ!」

さすがに腹大動脈。

その拍動が、存在感を示している。

模式図と同様に、血管が枝分かれしている部分が

はっきり見えた。

枝分かれした先の血管には、拍動がほとんど

感じられない。

また血管の色が、わずかに黒っぽい。

その部分を慎重に触ってみた。

オペ用グローブをしている指には

これといった違和感、異物感は全く感じない。



切開しやすいように動脈を周囲組織から

剥離した。


【器具で持ち上げているのが腹大動脈】
獣医師Tommyのブログ「小さな命と向き合って」 4


そして心臓に近い側の動脈を、

クレンメという器具ではさみ、

血流を遮断した。


獣医師Tommyのブログ「小さな命と向き合って」 4

これから腹大動脈を切開する。

真新しいメスを右手に持ち

「ふー」と小さく息を吐き

動脈を切る覚悟を決めた。


ゆっくり、慎重に切開を加えた。




今回の選択は、とても厳しいものでした。

ただこの仔に対する飼い主様の強い思いと

当院と飼い主様との確かな信頼関係が

オペを踏み切る要員になりました。


まだまだ長くなってしまうので

続きは次回にさせていただきます。


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