今年で10才のネコさんが来院した。

「昨夜、急にギャーと鳴いて

後肢が動かなくなった。」とのこと。

診ると後肢に全く力が入らず、

横たわっている。


獣医師Tommyのブログ「小さな命と向き合って」 4


獣医師Tommyのブログ「小さな命と向き合って」 4

「昨日の朝も昼もいつも通り

元気でいたのに・・・。」

とおっしゃる飼い主様。


後肢を触ってみる。

冷たい。

指をつねってみる。

全く痛がらない。

もう少し強くつねる。

全く反応がない。


爪切で爪を深く切ってみた。

血が出ない。

パットを診ると、

黒ずんでいる。


獣医師Tommyのブログ「小さな命と向き合って」 4


これらの症状から

頭に浮かんだ病気。

それは、最悪と言ってよいもの

すなわち

「大動脈血栓栓塞症」


簡単に言えば

お腹の中の大動脈が、後肢に

いくために枝分かれする部分の

血管に、血栓を詰まらせてしまい

その結果、左右の両側の後肢に

血液が流れなくなり、血行障害(虚血)に

陥り、麻痺が起きる。


【模式図】

真ん中に、血栓が詰まっている図
獣医師Tommyのブログ「小さな命と向き合って」 4

虚血に伴い、麻痺のみならず

当然筋肉、神経も徐々に壊死に向かう。


後肢だけではなく、肝臓も大きな

ダメージを受ける。


またこの病気の多くは、心臓に何らかの疾患

(心筋症など)があるケースが多いとされる。



治療は、人で用いられている血栓溶解剤

というものがあるが、とても高価であり

出血の合併症を伴うリスクが高いことから

実際に、猫に使用するケースは少ない。


多くの場合、血液がさらに固まらないように

ヘパリンという薬物を用いる。

しかしながらこの薬物は、新しくできてしまう

血栓を予防する効果は期待できるかもしれないが

すでにできてしまっている血栓を溶かす

効果までは期待できない。



専門書には、予後(今後の見通し)不良とあり

「発症後60~70%が死亡または安楽死」!?

との記載がある。


当院では4~5年に1頭出るかどうかの

レアな病気であるが、過去に遭遇した

仔たちは皆、内科的な治療を試みたが

残念ながら、生存した仔はいない。


後肢の壊死がとても強い痛みを起こし

その苦しむ姿に、安楽死を希望された

方もいらした。


これらのことを飼い主様に説明した。

「このまま苦しんでいく姿をみることに

耐えられません。」

「一か八か、手術はできないのですか?」


手術はとても高いリスクを生じる。

腹部の大動脈を切開し、中に詰まっている

血栓を摘出し、切開部を縫合する。

言葉にすれば、ほんの2行だが、

実際には難しい。


確かに今の状況のままでは、時間と共に、

壊死が進行し、麻痺や痛みがより増大する。

時間が経過すればするほど、オペのリスクは

高まり、成功率は低下がる。


「うーん」

いろいろなことが頭をめぐる。

万一、大動脈を傷つけたりでもしたら、

腹部一面あっという間に血の海となり、

止血もまず容易にはいかない。


いやそうではない。

故意に大動脈を傷つける(切開)オペである。


専門書に再度、目を通す。

外科的治療は心疾患のことからも

危険すぎて進められないとの記載がある。


獣医師Tommyのブログ「小さな命と向き合って」 4

「何であれ、どうであれ

今の状況を、何とかしなければ・・・。」


                       (つづく)


この病気の多くは、前ぶれもなく

突然発症してしまいます。

発症時のピークは約10才、

好発品種もありません。

オスの方がメスより発症しやすいようです。

ネコで多くみられ、イヌではまれです。


ランキングに参加しております。

よろしければ、ポチして下さい。
にほんブログ村 その他ペットブログ 動物病院・獣医へ