恋海 ソウシ夢 「強さと弱さ」2 | 夜の羊の本棚

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ソーシャルゲーム”恋に落ちた海賊王” ”戦国LOVERS”の夢小説を書いています。

更新不定期。

小説らしい文章スタイルを目指しています。



以下、ソウシルートネタばれがあります。
ご注意ください。





強さと弱さ

(ああ、やってしまった…)

通りを一人で歩きながら、ユエは溜息をついた。先ほどは二人のひどいいいように、ついかッとなってしまったが、こうして一人になってよく考えると、ハヤテとシンの言うことは的を射ているように感じた。

船に乗って数カ月、ユエだって何もしていなかったわけではない。ソウシの助手をメインに、ナギの手伝い、買いだし、ロープワークなど、自分のできることを習いしてきたつもりだ。ただ、言われて思い返してみると…

例えば、情報収集。一人では危ないからと、ソウシがいつも一緒に来てくれる。買い出しも、重い荷物を一人で持つのは大変と、自分の買い物より優先して付いてきてくれる。
そして自分も、元々穏やかで話しやすいソウシが同室であるものだから、つい他の人より多く頼ってしまうのも、きっとハヤテからすれば先ほど言っていたように見えるのだろう。

(確かに、ソウシさんに甘え過ぎかも…)

船に残りたいと言った時の、みんなの反応が思い出された。「俺たちは遊びで海賊やってんじゃねーんだぞ!命かけてんだ!」と言った、ハヤテの言葉…呆れたような、シンとナギの顔…それに、

「とても女の子に耐えられるとは思えないよ」

と言った、ソウシの複雑な表情。それらを抑えて「お前の目が気に言った」と言ってくれた船長のおかげで、今自分はここにいるのに。
船に乗る以上、女だろうと例外は作らない、と言ったのは、リュウガだ。
ソウシがいくら優しいからと言って、甘えすぎないようにしないといけない。今までの自分を思い返して、周りからどう見えていたのかと思うと、人知れず頬が赤くなった。もっと自立したら、重要な仕事を任せてもらえるようになるだろうか。いまのところのユエの仕事は、どれも雑用ばかりで、たとえある日ユエが船を下ろされたとしても、誰も困らないものばかりだ。

(少し、距離を置いた方がいいのかな)

そう思いかけたが、直後、脳裏に先日のソウシとの会話がよみがえった。

『…その病気にかかっていた人を、死なせてしまったことがある……私のせいで、ね』

「…ソウシさん…」

探している宝が、ラブローズと言う植物であることは、つい数日前の人魚との会話で分かったことだ。それが、ブラックローズ病という病の特効薬になる、と言うことも。
聞いたときは、さすがお医者さん、と思ったけれど、長年探していたものにようやく手が届きそうなのに、ちっともうれしそうではないソウシはやはり何かおかしい。それどころか、どこか苦しげな表情すら浮かべる顔が、脳裏に焼き付いて離れない。

(ソウシさんのせいでって言ってた…いったい、何があったんだろう…)

罪滅ぼし、とも言っていた。医者が患者の病気を治せないことは、必ずしも医師に非があるわけではないはずだ。どんなに尽力しても、人の力の及ばない、一般に不治の病と言われるものは多く存在する。
しかしソウシの言い方は、そのたぐいのものではないように聞こえた。それが何なのか、重ねて訊きたい衝動にかられたが、できなかった。話している時のソウシの悲痛な顔を見て、とても聞くことなどできなかった。そして直後、ぶしつけなことを言ったことに後悔した。
しかしあれから彼が、自分に対してよそよそしくなったとか、そんな変化は見られない。確かなのは、今はユエの方が、ソウシのことを意識してしまっていること。もっと聞きたいけれど、明らかに話すことを避けているソウシにこれ以上踏み込むことは、ただの助手である自分がしていいこととは思えなかった。

(って、私、またソウシさんのこと考えてる!)

どうしてこんなにも気になるのか。
追いやっても、いつの間にか気付くとソウシのことを考える自分をいぶかしく思いながらも、彼のためにできることをしたい、と思った。
たとえこちらから、ソウシの過去を聞くことができないとしても、せめてそれを探す手助けができれば。
仲間にも言っていない過去を、ユエには話してくれことが、ユエの心を心をじんわりと温かくする。自分が助手だから、なのかもしれないが、それでもいい。彼が少しでも、楽になるのならば。

(きっと、私だけじゃない…仲間があんなつらそうな顔をしてたら、みんなだってほうっておけないはず…それに、私はソウシさんの助手なんだから)

そのためには、自分も少しは頼りがいがあるのだと証明するために、宝の情報を集めなくてはいけない。見つけるところまでは行かなくとも、手ぶらで4日間を過ごせば、さすがのソウシもあきれるに違いなかった。
船長に、海に放り投げられないようにしなくては。もちろんそれは、物のたとえだろうが。しかし、ハヤテやシンにああまで言われたと言うことは、自分の行動に何か落ち度があったには違いない。 

(よし、頑張ろう!)

そうと決めると、突然世界に視界と音が戻ってきたように、周りの景色が鮮明に目に飛び込んできた。
考えながら無心で歩いていたようで、いつの間にか裏路地の狭い道に入り込んでいることに今更ながらに気付く。人通りもなく、どこか寂れた感じがある通りだ。

(とりあえず、人の多いところで情報を集めよう)

実際はそんなに時間は経っていないはずだが、ずいぶん外れまで来てしまった気がする。
こうしてはいられないと、街の中央の高い建物を目印に、ユエは時を惜しむように足早に向かって行った。