恋海 リュウガ夢 「涙を堪えて泣かないで」 | 夜の羊の本棚

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ソーシャルゲーム”恋に落ちた海賊王” ”戦国LOVERS”の夢小説を書いています。

更新不定期。

小説らしい文章スタイルを目指しています。

甘さゼロ、ちらっと死体とか出てきます。
苦手な方はご注意を!









アスカは見晴らしの良い高台に座り、海を眺めていた。
目の前は切り立った崖になっており、死角になっている下の方からは波が寄せては砕ける音が一定の間隔で聞こえてくる。

今シリウスは、とある大きな港町に停泊中だ。ここまで賑やかな港に来るのはひさびさだ。と言うのも、ここから馬車で2日飛ばすとそこはすぐ王都であり、そのためここの港にはありとあらゆるものが集まってくるのだ。
そのため当然町自体も栄え、ここに来るまでの浜辺には裕福な人たちが華やかな衣装を着て日傘をさし、砂浜にセットしたテーブルでお茶などを優雅に楽しんでいる光景がそこここにあった。
それらを横目に海岸沿いに町からどんどん西へと外れていくと、道幅が徐々に狭まり、左手は海、右手は岩の壁になる。途中それらの岩が崩れ積み重なるところへたどり着き、
それを超えたところに、今アスカのいる高台へと登れる道が見つかる。

別に、ここにこんな場所があると知って来たわけではなかった。ただ人のいない場所へ場所へと足の向くまま歩いていたところ、偶然たどり着いたのだ。崖と言っても登ってしまうと殺伐とした感じはなく、黄緑色の草が生い茂り、ちょうど地面の終るところにひなげしが2本風に揺らめいている。その鮮やかな赤だけが緑と空の青以外に見える唯一の色だ。この開けた小さな空間の後ろは木が生い茂っていて、当然民家もなければ歩く人もおらず、聞こえてくるのは波の音と遠くのカモメの声だけである。そよそよと優しく吹きぬける風が、船の上とはまた違った香りを運んでくるのが新鮮だ。

茫然と、何を考えるでもなく海を見つめていると、遠くで教会の鐘が鳴るのが聞こえた。耳を澄ませてぼんやりとその音をたどっていたとき、それとは別に後ろからぱらぱらと砂の崩れるような音が聞こえてきた。ちょうど自分の登ってきたあたりからのようだ。
誰か来たのかと思って身を固くして見つめていると、不意に下から大きな帽子ぬっと顔を出し、次いで現れたのは―――

「・・・リュウガ船長・・・・・・」
「なんだ、こんなところにいたのか。・・・にしても、よく登ってこれたな」
よっこらしょと言いながら登りきると、リュウガは立ったまままわりをぐるりと見回した。
そして何食わぬ足取りでアスカの隣まで来ると、静かに隣に腰を下ろした。

「よくここにいるってわかりましたね」
「そりゃあ、お前のことだったらなんだってわかるさ」
そうおどけて言ってみたが、アスカが黙っているのになんとなく気まずくなったのか、
「その・・・まあ、ずっと後をつけてたからな」
と、鼻の頭をかきながら本当のことを言った。
そしてアスカと並んで遠く海を見つめた。
小さく何艘もの船が浮かんでいるのが見える。
それらは海軍なのか、それとも海賊なのか、ここからでは見分けがつかない。

「・・・・・すみません、心配させてしまって」
ふいにぽつりと、アスカが呟いた。
淡々と言うその口調が、リュウガの心に不安をつのらせる。どうせなら、つらいとか、怖いとか言ってくれた方が、まだましだ。
彼女がこんな風になった理由、その原因は、今朝の街中での出来事だった―――。


朝、リュウガと朝食を終えたアスカは、その後一緒に町の中を散策していた。必要な買いだしは昨日すべて終わらせていたため、今日は情報収集意外にやることはない。出がけに何か面白いものがないかと船長が宿屋の女将に聞いたところ、町の中央の大きな橋がこの町のシンボルであることが分かった。この町は大きな川が街中にあり、それはこの港町を真っ二つにするように中央を横切ると海へと注ぎこまれている。大小さまざまな橋がかけられている中でも、中央にある橋はひときわ大きく立派で、一見の価値があるそうだ。
ならばやることもないし見に行ってみようと、リュウガと川沿いに出て歩いて行くことにした。すると女将の言うとおり、まだだいぶ距離があるにもかかわらず、少し行くと遠くに立派な橋が見えてきた。


「すごいですね!こんなのどうやってつくったんでしょう」
「確かに、これはなかなか見ない規模だな」

そんなことを言いながら橋へと近づいて行くと、その目的の橋のすぐ横に、何かがぶら下げられているのが見えた。初めに気付いたのはアスカで、なんだろうと目を凝らしてみてもよくわからない。鉄の棒がせり出しており、その下に同じく鉄製の籠のようなものが下げられている。
じっと何かを見つめるアスカに気付いたリュウガが、何を見ているのかと彼女の視線の先にあるものをたどりそれをとらえた時、とっさに引き返さなくてはと思った。

「船長、あれなんでしょう・・・・?」
「アスカ、悪いがちょっと他に用事を思い出した・・・」
彼女がその正体に気付いてしまう前に、適当な理由をつけて引き返そうとした時、近くにいた町の人がお節介にもリュウガの代わりにアスカの問いに答えてくれた。

「お嬢ちゃん、あれは海賊だよ」
「・・・海賊・・・?」

何を言っているのかすぐにわからなかったアスカだが、数秒後にその女の言うことを理解すると彼女の顔から血の気が引くのがわかった。

「そうさ、あの男は海賊になって、この海で船を荒らしまわったんだ。ああなって当然の報いさ。だいたい・・・」

女の話を、アスカは最後まで聞いていなかった。ただ青い顔で、視線をそらすことなくじっとつるされた男を見つめていた。




そのあとみんなで昼食を食べてから、ふいと一人でどこかに行こうとするアスカを見かけて、思わず後をつけてしまったのだ。一人になりたがっているようだしそっとしておいた方が良いかと途中何度も思ったのだが、あんな後で放心している彼女を一人にできないと思う気持ちが勝った。心配している、というより、一番不安だったのは自分自身かもしれない。彼女が、どこかへ消えてしまうのではないかと。突然そんなことをするような彼女ではないと、今まで一緒にいて十分わかってはいるのだが、先ほどの彼女にはそう思わせるような危うさがあった。

「・・・大丈夫か・・・って、大丈夫なわけはねえよな、あんなの見ちまったら・・・」
何と言っていいのかわからず、それだけ言うと二人の間に沈黙が降りる。
その二人の横を、草をさわさわと言わせながら風が通り抜けた。

「・・・自分でも、何がショックなのかよくわからないんです・・・」

しばらくしてから、言葉を選ぶように、ゆっくりとアスカが話しだした。リュウガは黙って、彼女の横顔を見つめる。

「・・・海賊が、みんなに嫌われていることも・・・。海軍につかまってしまったら殺されてしまうってことも、十分わかってたつもりなんです」

それは当然のことだ。海賊行為を働いたものは死刑。幸い自分の国ではそういったものは少なく、実際の被害にあった者たちをみたことはない。
それでも聞こえてくる噂は、どこの海で商船が襲われただとか、乗組員のほとんどが殺された、どこかの貴族の邸宅で財産を奪われ焼き払われた、などと、恐ろしい話ばかりだった。そんな行為を働く者は死刑になっても仕方がないと、むしろ自分たちの生活の安全を考えるとその方がいいとさえ思っていたのに。

そんな考えを覆されたのは、シリウスのみんなと出会ったからだ。海賊と言っても、ただ奪って人を殺すだけではないということを知ってしまった。やることは荒っぽくても、そこに優しさもあることを知ってしまった。

シリウスは、女子供は襲わない。弱者は守るが、その代わり税を巻き上げて苦しむ町人を顧みない貴族、裏取引で肥えたあくどい豪商などからは容赦なくその財産を奪う。
確かにほめられた行為ではないが、ではその汚い金でのうのうと生きている貴族たちはどうなのだろう。同じことではないか、海賊と。

しかしそんなことを言ったところで、うなずいてくれる人はいないだろう。
自分だって、こうして海賊になって見なければ、こんなこと知りもしなければ思いもしなかった。

ここまで考えた時ようやく、アスカは自分が何に対してショックを受けていたのかがわかったような気がした。


「・・・・けど、実際に目の前で見てみて・・・・・あのおしえてくれた女性が、海賊は殺されて当然だって言いきるのを聞いて、すごく悲しかったんです・・・・」

自分たちだって海賊なのだ。もし海軍に捕まるようなことがあって、殺されてあんなふうにらさらし者にされる日が来たとしても、それを喜ぶ人こそあれ、悲しむ者などいないのだろう。
あの海賊が何をしたのかはわからない。もしかしたら本当に、処刑されて当然のことをしたのかもしれない。
それでも、シリウスのみんなは違う。しかし、たとえどんなに自慢の仲間でも、それを公に言うことは許されないのだ。なぜなら海賊であるというだけで、それはもう悪なのだから。

「・・・自分たちが・・・シリウスのみんながああなることを望まれているみたいで・・・・。違うんですって、こんなに優しい海賊もいるんですって、言いたいけれど、言えないことが悔しくて」

頬に一瞬暖かいものが静かに流れるのを感じたが、吹き抜ける風ですぐに冷たさへと変わる。

「・・・・あの海賊が誰なのか、教えてやろうか?」
「・・・!!知ってるんですか?」

驚き思わずリュウガの顔をみる。

「あいつは、   っていう名前なんだが・・・この町の、なんて言う貴族だったか・・・・名前は忘れたが、とにかくとある貴族に雇われた、私掠船(しりゃくせん)の船長だった」
「・・・・っ、それじゃあ、悪いのは・・・・!」
「ああ・・・・、けど、都合が悪くなるとああやって、罪をかぶせて処刑する。あいつだけじゃない、今まで何度もやられてきたことだ。その方がわかりやすいし、町民も納得するからな」
だいぶ前に派手に処刑されたんだが、まさかまだあそこに残されているとは思わなかったな、とリュウガは締めくくった。
何と言う酷い話だろう。これでは、何が悪で善なのか、わかったものではない。

「・・・・・怖いか?」
まっすぐな瞳で、リュウガが見詰めてくる。
その挑むような視線をアスカも負けじと受け止め見つめ返した。

「・・・怖いです・・・・けど、シリウスのみんなと離れる方がつらいです。私は・・・」

リュウガの目をまっすぐに見つめる。きっと自分は今酷い顔をしているに違いないと思った。

「私は、何が正しくて、何が間違っているのか、絶対に間違えたくないです。たとえみんなに恨まれても、怖がられても・・・・、もっとシリウスのみんなと、いろんな世界を見てみたいです。どんなことになっても、後悔はしません」

そうきっぱりと言い放つと、先ほどまでもやもやと胸にわだかまっていたものが、消えてなくなっていることに気付いた。すがすがしい気持ちで空を仰ぐと、不思議と先ほどよりもそれは澄んだ深い色になったように感じた。

ぽん、っと頭の上にリュウガの大きな手が載せられた。次いで、わしゃわしゃと髪を掻き混ぜられる。

「ちょっ、船長、やめてください!」
「お前は本当に、いい女だよな」
「なっ・・・!」

とたんに真っ赤になったアスカを見て、リュウガはぷっと吹き出した。

「なんだお前、さっきはあんないいこと言ってたくせに。泣いたり赤くなったり、いそがしい奴だな」
「誰のせいだと思ってるんですか・・・!」

すっかりいつもの調子に戻ったユエを見て、言うことは相変わらずだがリュウガの表情は優しい。

「本当のことを言っただけだ。お前は、優しいな」

そうリュウガが言うと、アスカはうれしそうに笑った。






「よし、いつまでもこんな淋しい所にいないで、町に戻るぞ。酒も飲みたくなってきた」

ガハハ、と笑いながら勢いよく立ちあがるとアスカに向き直り、右手を差し出す。

「もう、船長。こんな昼間からお酒なんてダメですからね」

その右手つかまり、アスカも立ち上がる。すると右端に一瞬きらりと光るものが見えた気がして顔を海に向けたが、あるのは先ほどと変わらぬ穏やかな海だけだ。

「どうした?」

「・・・いえ、何でもないです」
その目に焼き付けるように海を一瞥すると、船長に手を引かれてもと来た道を戻った。





二人が完全に下へと姿を消し、その声も届かなくなると、そこはまた元通りのしずかな空間に戻った。何も変わらない、いつも通りの景色。その中で、ひときわ赤いひなげしだけが、残された二人分の草のくぼみの向こうで、風に吹かれてかすかに揺れた。

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私掠船・・・国家が個人に対して敵国の船の襲撃を認め、その掠奪免許証をもった船のこと




無駄に長くなったような・・・・しかも小説一作目から甘さゼロです(汗。
リュウガルートのヒロインちゃんは強いので、こんなことがあっても乗り越えられるのではないかと妄想。実際の海賊事情と絡んだお話を書きたくてこうなりました。

お題はこちらのサイト様より拝借↓↓
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