『さよならドビュッシー』主演・橋本 愛、清塚信也、利重 剛 監督来名! | C2[シーツー]BLOG

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 第8回「このミステリーがすごい!」(宝島社主催)で大賞を受賞した中山七里原作の同名小説を、2001年第51回ベルリン国際映画祭に出品された『クロエ』で高い評価を得、監督として実力を発揮し、2012年TBS系列日曜劇場で放送された「ATARU」で俳優として好演した利重 剛監督が、約10年ぶりにメガホンをとり映画化!大怪我を負いながらも懸命にピアニストを目指す主人公を演じるのは、『告白』や『桐島、部活やめるってよ』などに出演し、今最も注目を集める女優・橋本愛。現役人気ピアニストの清塚信也がピアノ教師を演じ、リアリティあるピアノ演奏で世界観を広げている。

 今回、公開前のキャンペーンで主演の橋本 愛、清塚信也、利重 剛監督の3名が来名。名古屋でも撮影された、この極上音楽ミステリーの見どころ、撮影エピソードを訊いた。


音楽をきちんと描いたミステリーにしたいと思いました(監督)

▷▷中山七里さんの原作を映画化するにあたって大切にしたことは?

利重剛監督(以下:監督)「原作は演奏シーンの描き方がエネルギッシュで魅力的で、とても音楽を好きな方が書いている印象がありましたので、映画でも音楽を大事にしたいと思いました。音楽を小道具にしたミステリーではなく、音楽もきちんと描いたミステリーにできればと。とはいえ、難しい原作ですし、映画は具体ですからね。素晴らしい演奏を、言葉じゃなく本当に見せなければいけないので本当に大変でしたが、ハードルが高いぶん、やりがいはありました」

▷▷映画も原作と同様に名古屋を舞台にされていましたね?

監督「仕事でよく名古屋に来ていたので、どこに何があるか、ある程度は知っていましたから、ここはオアシスで撮りたいなとか、そういうことも含めて脚本を書きました。ただ名古屋といってもほとんどの事件が室内で起こりますから(笑)。そこは工夫しました」

▷▷10年ぶりの監督作ということで、変化は感じましたか?

監督「40歳までは、高校の文化祭のために映画を作っていた時と変わらず生きてきたような気がするんだけど(笑)。40歳から50歳にかけてのこの10年ですごく変わりました。自分に子供が生まれたことはとても大きくて、家族に対する考え方や世界の見え方も変わりましたし、8歳の娘が大きくなった時に観てもらえる映画を作りたいという気持ちになって。具体的には言えないですが、自分の意識が変わったことで、演出や映画の質も変わっていると思います」

▷▷撮影にも気合いが入った?

監督「気負いも不安もなく、ただすべてのことに手を抜かず一生懸命に作りたいと思っていました。小説を好きな人も、映画を好きな人も、音楽を好きな人も、なるべく多くの人に満足してもらえるよう、まず面白いということを大事に、そして隙間があれば少しずつ言いたいことを散りばめられればいいかなと。今までに僕が作った映画とは違って、思いっきりエンターテインメントの映画にしたかったんです。僕の映画の師匠は岡本喜八監督なんですが、とても音楽が好きで使い方もとても上手な方でしたから、この映画の一面には、岡本喜八監督へのオマージュの部分もあるんです」

▷▷音楽の演出で工夫したことは?

監督「演奏シーンは何となくでは撮れないので、楽譜にコンテを書いて撮るようにしました。岡本喜八監督が『ジャズ大名』という映画を作った時に、楽譜にコンテを書いていたのを覚えていたので、同じように演奏に秒数のカウントを入れてもらい、聴きながらコンテを切って一度ビデオコンテにして、というやり方で作っています」

その場で生まれた感情を素直に出しました(橋本)

▷▷心と体に傷を負ってしまう遥は難しい役だと思いますが、橋本さんはどう役作りを?

橋本愛(以下:橋本)「ピアノの練習をしたぐらいで、役を作る作業はあまりしませんでした。綿密に役を突き詰めたりせずに、真っ白な状態で現場に入ったんです。遥の人生を反芻して、今どういう気持ちなんだろう?って考えて、カメラの前でその時に生まれた感情をスタートを合図に素直に出させてもらう感じで。現場では遥という女の子の人生を、カメラの向こうの方たちに届けるということを意識していました」

▷▷演じてみて、遥はどんな女の子だと思いました?

橋本「わからないところもありますけど、演じていてすごく頑張ってるなって感じました。緊張とか、不安とか、嫌悪とか、葛藤とか、頑張ってる中で生まれた感情に自分が転がされている女の子なので、すごく愛おしくて。頑張れていない人が見た時に、何かを与えられる子なんじゃないかと思います」

▷▷ピアノを練習されたそうですが、もともとピアノは?

橋本「ピアノを弾く役は今回が3回目なんですが、それ意外ではまったく触れてきませんでした」

▷▷ピアノを弾きながら感情を出すシーンもありましたが、難しくありませんでしたか?

橋本「メロディを口ずさめば、考えなくても歌詞が出てくるような感じで、自然に手が動くようになれたら最高なんですけど、簡単ではなくて。監督から気持ち優先でやっていいと言っていただいたので、とにかくできるところまで頑張って、どうしても届かなかった部分は助けていただきました」

監督「そうは言っても、清塚くんと2人ですごく練習してくれて、どんどんどんどんできるようになったので、徐々にハードルを上げていったんです。非常に頑張り屋さんで、できないとは言いませんし、難しいことも相談するときちんとやってくれる。僕が最初に予想していた合格点以上にやってくれています。手は確実に全部合っていますし、実際にピアノを弾く方なら見てわかるように、本当に弾けていますからね」

▷▷確かに全然、違和感がありませんでした。

監督「そうですよね。ここまでできている映画はないんじゃないですか?本人は役作りはしていないって言っていますけど、その場その場で本当の感情が出ていればそれが正解。最初から瞬間、瞬間に役を生きてくれればいいよって話していたんです。不安も緊張もあったでしょうけど、見事にやってくれました。実際にギリギリの緊張の中で、ずっと解決できない問題を抱えつつ生きている役なので、その精神状態をずっとキープしていてくれたと思います」

岬というキャラクターの人間としての魅力を出したかった(清塚)

▷▷清塚さんは本格的な演技は初めてだったそうですが、岬というキャラクターをどう演じようと?

清塚「初挑戦でしたが、岬というキャラクターにすごく助けられました。やっぱり普段の僕の素の部分とシンクロするところが多々ありますから。本番に入る前から監督と入念に話をして、岬のキャラクターを築き上げていきました。ピアノを弾いている男子というと、俺様っぽくて繊細でちょっとワガママなところがあってみたいな、みんなのこうあって欲しいという理想像があるんです。でもこの映画では貴公子とか、王子とか、誰もが持つイメージを打破した人間としての岬の魅力を観て欲しい、そこに挑戦したいなと思ったんです。すごく難しいことでしたけど、スタッフの方や愛ちゃんのおかげで表現できたと思います」

▷▷役としてピアノを弾くのは普段とは違うものですか?

清塚「そこは自然に任せました。撮影中は岬洋介になっていたつもりなので、それ以上何か付け加えると逆にわざとらしくなる気がして。ピアノを弾くシーンに関しては、何も考えずに一生懸命弾くだけでした」

▷▷リストのマゼッパを弾くシーンについては?

清塚「あのシーンは調律をしたついでにポロンとピアノを触っているという設定で、誰かに聴かせるためではなく、部屋で1人で弾いているだけ。だからピアノだけと対峙するということを心がけていました。魅せてやろうというのではなくて、音を楽しんで弾いているという面を出せたらなと」

監督「リストのマゼッパは演奏するのも難しいんですが、あのシーンは家の玄関でその音を聴いた遥がピアノ室に入っていって、岬が演奏しているのを見るところまでワンカットで撮っているので、すごく難易度が高いんです。演奏が4分ぐらい続きますから、素晴らしい演奏なのにカメラが入るタイミングを間違うとNGになりますし。しかもスタジオで録音した音に手を当てるのではなくて、実際にピアノ室で演奏してる音を録りたくて。日本映画でも外国映画でもあまり類のないことに挑戦したかったんですね。撮影当日の朝、清塚くんが“監督がどんな演奏シーンにするのか僕も楽しみにしているので、欲しいアングルがあったら遠慮せずに何でも言ってください。何度でもやります。僕らピアニストは1日12時間ぐらい練習するので疲れたとか言いませんから”と言ってくれて。じゃあ遠慮なくって(笑)。最初の段取りから含めたら、20テイクぐらいはやってるよね?」

清塚「本当に遠慮なく何でも言ってもらえました(笑)。本気の時と流しで弾くのではテンポ感が変わってしまうので、リハから全部本気で弾いたんですけど、繋がりがあるからあまり汗だくにもなれないという(笑)」

細かいところにも味があるので、見落とさないで欲しいです(清塚)

▷▷監督が感じた清塚さんの俳優としての魅力は?

監督「すごいでしょ?僕が発見しました(笑)。僕は音楽をやる方は演技のセンスもあると思っているので、もともとミュージシャンに出てもらうのが好きなんです。特に今回の岬役はピアノが本当に弾ける人がよかったので、逆転の発想でピアニストに演技もしてもらうやり方があるんじゃないかなって。色々調べていて清塚くんを発見したんです。HPを見てエッセイも読んで、まず文章にすごく惹かれました。岬の持っている本質がこの人の中に絶対にある、きっとこの役を理解できるはずだと思って声かけさせてもらったら、僕でよければって二つ返事で引き受けてくれました。家も近所なので、それから長い時間をかけて合宿みたいに2人で色んな話をして、それを脚本に入れてリハーサルをして。本当に理想的な関係でやれましたね」

▷▷ピアニストならではのセリフが多かったですが、それは清塚さんの言葉?

清塚「その場で出た言葉もあれば、監督に相談して脚本に入れてもらったもの、監督が書いてくれたもの、もともと原作に入っていたものと色々です。でもどれも間違っていませんから、音楽家を目指す子どもたちにもそのままトレーニングとして観てもらっていいと思います」

▷▷「手首で呼吸をするように弾く」というのは?

清塚「ショパンが実際にお弟子さんに言った言葉なんです。僕もレッスンでよく使いますし、橋本さんの演技にもそれを反映していただきました。手首を柔らかく使う動きって難しいから、普通はできないんですけど、橋本さんはすごく柔らかくてしなやかで、ちゃんと使ってくれて、タイミングもバッチリでした。手首の使い方が大事なのはプロでも課題の1つなので、ピアノを弾く方には取り入れて欲しいなと思います。現場でもみんなやっていましたよ(笑)」

▷▷完成した映画を観て、特に気に入ったシーンは?

橋本「私はルシアと遥が同じ地面に立つ最後のシーンが好きです。後ろに炎があって、2人のアップが交互に入ってシーンが変わるっていう。あのカットはすごく好きですね」

清塚「僕は橋本さんとのレッスンのシーンと、コンクールの予選の舞台裏でのシーン。岬が遥を大丈夫だと励まして“いい演奏になるよ!”って言った時に、前の子が泣きながら入ってくるっていう(笑)。あれはもともと台本にはなかったんですが、リハでああいうカタチになって本番もそうなって。すごくいいなと思いました(笑)」

監督「何度観てもおかしいよね(笑)」

清塚「映画を観た時は開始から数分で、両親と離ればなれになっちゃう子どものシーンで泣きましたし(笑)。あとは研三役の山本(剛史)さんが“バカばっかりだバカ!”っていうところや、岬が刑事と対峙するシーン、ほかにも戸田(恵子)さんや三ツ矢(雄三)さんの表情とかセリフとか、メインじゃないところにもすごく味があるので、ぜひ見落とさないで観て欲しいなと思います」

★『さよならドビュッシー』1月26日(土)ミッドランドスクエアシネマほかROADSHOW
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TEXT=尾鍋栄里子