【講演録】消費者の潜在ニーズをとらえる行動観察手法 | ラテン系企画マンの知恵袋

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連休前ですが、エルネットの行動観察推進部長、越野氏の講演を聞いて参りました。

行動観察とは、「現場の事実からの気づきを根拠立てて解釈する」ことで、潜在的なニーズ、リスク、スキル等を抽出するマーケティング手法。従来の市場調査やマーケティング活動で前提とされている「生活者の思考プロセスは合理的である」「生活者は自らの思考プロセスと行動を言葉で説明することができる」等は、実は正しくない。「自分で気づいておらず、言葉にできない」潜在領域が人間の意識には存在するというという考え方に立脚したのが行動観察のアプローチとなる。

行動観察には「人間工学」「エスノグラフィー」「環境心理学」「社会心理学」「しぐさ分析」「表情分析」の6つの学問的アプローチがある。エスノグラフィーは元々、文化人類学の手法で、長期間に亘って観察対象の部族を研究したことに端を発する。それが、観察対象の家庭や職場に赴き、言葉や写真だけではわかりにくいその場の雰囲気、文化、習慣などを探るというマーケティング手法に応用された。また、特別な訓練を受けたしぐさ分析のプロは、以前あった嫌いなものをあてるテレビ番組などは、ほぼ完璧にあてることができる。

すべての手法がそうであるように行動観察も万能ではない。実際は、インタビューやビデオと併用することで、より効果が高まる。観察で得られた「事実」「ファインディングス」を元にインタビューを行うことで、「背景」や「気持ち」を補強する。

行動観察から「事実」を読み取るには訓練が必要となる。ビデオの枠に写らない背景情報等をどれだけキャッチし読み取れるか。また、観察対象者に溶け込んで行う手法という特性上、観察者には謙虚であることが求められる。以前、工事現場で行動観察を実施した際、観察者がタクシーを現場に横付けしたことで、ひんしゅくを買った。

行動観察の応用事例をいくつかご紹介頂いた。

■男子高校生と男子大学生の洗顔の仕方

高校生の方が熱心で洗顔時間は概ね大学生の2倍。ただし、10人中8人が間違った洗顔の仕方をしている。力を入れ過ぎたり、無駄に2種類の洗顔フォームを混ぜてみたり。正しく洗顔していた2人に共通するのはお姉さんがいること。姉から指導を受けたり、見て学んだりということが考えられる。洗顔フォームの広告の際は、単にイメージ訴求をするのではなく、正しい洗顔の仕方も訴求する必要がある。

■顧客サービス優良店とダメなお店の違い

同じマニュアルをベースにしていても、お店のカルチャーが明らかに違う。優秀なお店の店員は、どんなに忙しくてもしぐさが優雅で落ち着いている。ダメなお店は、例えば、お皿を下げる際、「お下げしてよろしいですか?」と言いながら、既にお皿に手をかけている等。

■銭湯で生ビールの売上を59%アップさせた事例

行動観察により、最もビールの注文に繋がる導線がサウナであることを把握し、サウナ内の行動観察を実施。サウナの中ですべての人が必ず行う行動が「時計をちらちら見ること」を発見。時計のそばに、おいしそうな生ビールのポスターを貼ったことで、サウナ後の生ビールの注文が激増。

■健康ランドで自動販売機の飲料の売上を75%アップさせた事例

よくある光景として、お父さんと子供でお母さんが出てくるのを待っている。その際、子供がお父さんに飲み物をせがむ。お父さんは「ママが出てくるまで待って」となだめる。ところが、お父さんが喉が乾いて自分用に買ってしまうと、子供にも買わざるを得ない。以上の行動観察から、「お父さんにもっと買わせることができれば、売上を増やせる」との仮説を抽出。自販機の品揃えは、「子供が欲しがるもの」を中心に並べているので、それを「お父さん目線」で再構成。具体的には、銭湯の定番「コーヒー牛乳」を目立つ様にレイアウトしたことで、売上激増。

最後に、私の所感です。「人は自分の考えを言語化できる」という前提が成り立たないのは明らかである一方、現実には従来型の定量調査依存からなかなか脱却できないのは、「解釈の幅が狭く組織内コンセンサスが得られやすい」から。行動観察から得た知見・仮説の解釈に対し、組織内でコンセンサスを得ていく一連の仕組みの確立が今後の課題であると考えます。