【書評】自由主義の再検討 藤原保信 著 | ラテン系企画マンの知恵袋

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「自由主義の再検討」というタイトルから、社会主義・共産主義系の本かと一瞬誤解してしまうのですが、古代から現代までの思想史・政治史・経済史を体系的・客観的に網羅した良書です。私自身も完全に理解できていると自信を持って言える状況ではありませんが、常に手許において置き、繰り返し読みたい1冊です。

「これまでの要約」にある通り、本書は「資本主義、議会制民主主義、功利主義という順序における自由主義の正当化の問題に始まって、それに対する社会主義の挑戦が何であったかを問い、その失敗の原因がどこにあったかを問いながら、今日の自由主義と自由主義の理論を検討してきた」という内容で展開される。

今回、勉強になったのが、資本主義も、議会制民主主義も、ヨーロッパの長い歴史の中では必ずしも好意的ではなかったということ。営利活動に対しては、常に倫理的・宗教的に制約がかけられていたし、民主主義も衆愚政治と同一視され、存在しうる国制のうちきわめて低い位置しか与えられていなかった。「徳による支配をよしとする貴族的な階層社会が存在し、支配の原理は秩序そのものに内在する」というのがギリシャのポリスから脈々と受け継がれている考え方だ。

ところが、ルターの宗教改革を機にプロテスタティズムが台頭したことで、富の蓄積は救済であると正当化され、次第に「救済」の為の「営利」が自己目的化し、「営利の為の営利」となっていった。また、政治に関しても、ホッブズに始まる社会契約説の出現以降、特定の秩序に基づく徳による支配が崩れ、個人が生まれながらにして持っている「自然権」を追求することが是とされ、功利・欲望のあくなき追求に繋がった。

これら、資本主義・議会制民主主義の暴走を修正しようと試みたのが社会主義・共産主義であるが、ソ連邦崩壊に見るとおり実地での実験は失敗に終わった。また、理論体系としても、権力の悪にたいして楽観的過ぎたこと、また、歴史そのものがひとつの普遍的法則によって支配され、かつ人間がそれを完全に認識しうるという歴史観そのものにも問題があったと考えられる。

結局は、資本主義・議会制民主主義を前提としながら、それに法的、政治的規制を加えつつ、徐々に軌道修正していく考え方が現実的であるというのが本書の主張であり、そのひとつの解決策としてコミュタリアニズムに着目している。

「実践そのものの場、つまり関係の網の目をおのれの属する小集団に始まって、可能な限り拡大していくことが必要である」というコミュタリアニズムの考え方は、実は、webやソーシャルメディアの普及に伴い、共通の価値観をベースにした新たな無数の小集団が形成されつつある現状とも合致しているなぁなどと感じたりもした。

いずれにしても、壮大なテーマを、実に簡潔にわかりやすくまとめた本であり、一読を強烈にお奨め致します。

自由主義の再検討 (岩波新書)/藤原 保信

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