#3776のペン芯について | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

#3776のペン芯について

読者の方が、ヤフオクで初期#3776を入手されたとのこと。#3776の愛用者としては嬉しいかぎりで。

その紹介記事のなかで#3776の極太ニブを推奨するとともに、初期のそれが現行品ではありえない手のこんだ逸品であると記した。

では、こう問わねばなるまい。手が込めば込むほどよいのか? 手作りは有無をいわさず素晴らしいのか? と。

以前にも触れたことがあるが、匠の名を欲しいままにする都内在住のさるマイスターMは、いまとは段違いに手作業の割合が多かった時代の万年筆について懐疑的であった。──その割には、彼のサイトには垂涎もののアンティークが目白押しなんだが。

徹底してユーザーとして万年筆に向き合おうとするならば、アンティークがいささか不安げなものであることは間違いない。マイスターMが言及したのもその点であった。たとえば50年代のモンブラン149を思い切り使えるかと。すでにメーカーはアンティークを修理する能力をもっていないと。

たとえ数十年前のものだろうと、自社製品を修理できないというメーカーには問題を感じざるをえないが、とにかく現状がそうであるならば仕方ない。壊れないように恐々と使わざるをえないだろう。──なお149のテレスコープは、銀座の某アンティーク屋で修理が可能だったと思う。

さらに彼にいわせると、アンティークだからといって、手が入った部分が多いからといって、必ずしも現行品より優れているとは限らないということであった。

本当は139を話題にしたいのだが手に取ったことすらないので諦めるとして、また引き合いにモンブラン149。ヤフオクやアンティーク屋を見ていて、マニアに圧倒的人気を誇るのは50年代ものである。しかし「拙者は50年代と60年代のNo.149は筆記具とは認めていない。骨董品じゃな」と、web万年筆界最強の人物も述べている(「万年筆評価の部屋」より)。つまり古ければ古いほど、手が入っていればいるほど性能まで優れているとは、必ずしもいえないわけだ。

さて、#3776である。初期型はペン芯がエボナイト製だと紹介した。これがそのペン芯である。

3776

見てのとおり、一昔前の万年筆で時折見かけるがごとき、ぺったりとした実にシンプルな造形で、現在巷に流通しているような襞は少しも見当たらない。これは最初期型のはずなのだが、プラチナのペン芯変遷についてはwebをいくらひっくり返しても見当たらず、あくまで推定でものをいっている。

このペン芯、インクフローが素晴らしいのは間違いないんだが、たまにボタ落ちが発生する。襞なしペン芯で時折ぶち当たる症状である。残念ながら『4本のヘミングウェイ』は蔵書整理の折に売却したため確認が出来ないのだが、「初期のペン芯はインク溜まりの設計が悪く、発売後しばらくしてから(ペン先の形状とともに)改良が施された」というのならば、このことを指すのではないかと。

画像のニブは、別の#3776から差し替えたものだが、それにはプラ製のペン芯がついていた。したがって、エボ芯にも変遷があると思われる。つまり

初期型1:エボナイト製ペン芯・インク溜り不良。ニブはJISマーク入りで彎曲がきつい
初期型2:エボナイト製ペン芯・インク溜り改良。ニブは不明。ただし初期型1を改良
中期型:プラ製ペン芯。ニブはJISマークがなく、彎曲が緩め(初期型2と同一の可能性もある)
現行:プラ製ペン芯。ニブは中期と類似しているが、ハート穴がハート型


と、手元の情報を整理するかぎりではなりそうだ。もしかしたら、一気にエボ製からプラ製へと移行した可能性もあるので、識者もしくは、俺の#3776はこうだぞ! という勇者が出現するのを待つしかない。つまり、画像とは形態の異なったエボ芯があれば、この推理が妥当しているということになる。

とりあえず、まとめた感じでは初期型2がもっとも性能で優れているということになりそうだ。何といっても、エボ焼けが大好きな人間にとって、プラ芯ほど味気ないものはないから。ほかの諸点は、比較できないので措いておく。

ちなみに中期型の極太ニブはまだまだデパートなどで放置プレイの憂き目にあっているので、買おうと思えばまだまだ可能なはず。あくまで記憶でしかないんだが、最初期型極太よりも中期型のそれのほうがイリジウムが大きく、より太い字が書けたような気がする。