小森健太朗『ローウェル城の密室』(出版芸術社) | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

小森健太朗『ローウェル城の密室』(出版芸術社)



小森 健太朗
ローウェル城の密室』(出版芸術社)

作者が16歳のときに高沢則子名義で乱歩賞に応募し、いきなり最終選考に残った伝説の作品。

十代の少年少女が怪しげな老人の発明した機械によって、「ローウェル城の密室」なる少女漫画のなかに入り込んでしまうという、ファンタジーではよくある手法を用いている。この「ローウェル城の密室」を読まなければ、『ローウェル城の密室』の「密室」が可能にならないという点で、書物とは読まれることで作動するといった含意をももった、読み込もうと思えばなかなか興味深い一編なのだが、「ローウェル城の密室」が実に陳腐なのだ。

この部分を楽しめるという人もいるのだろうが、キャラの造形、文章の劣悪さなど、正直なところ読むに耐える代物ではなかった。それでも真相を知りたいがために読み通してしまうのだが…16歳という年齢が書かせたネタだろう。

たとえばこれを50代の人物が書いたとしたら、伝説というか何というか、「着想が若々しいですね」とか唇の端を歪められながら賞賛される類の作品になったに違いない。

現在から見ればもはや常識的な作品と整理される探小だろうが、1982=昭和57年という年を考えればやはり先駆的といっていい。とはいえ、とてもではないが全体的に優れているとはいいがたい。

ただし、この蛮勇は確かに賞賛に値する。

ローウェル城の密室』(for mobile)
★★☆☆☆
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