本格探偵小説論:麻耶雄嵩『木製の王子』 | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

本格探偵小説論:麻耶雄嵩『木製の王子』



麻耶 雄嵩
木製の王子』(講談社文庫)

本格探小は形式に自覚的な散文である。謎が論理的に解明されてゆくことに主眼を置くという本格探小の規定を思い出せばよい。それが「論理的」であるためには、作者は自覚的に「謎」を構築しなければならず、彼はいわば物語を超えた神の位置に立つ必要がある。

本書は、日本的「自然」に対抗する本格探偵小説を論じて至高の一編である。物語のなかで一言も言及することなく、本格探偵小説論を展開した無茶な作品といえる。

何をいっているのかさっぱりかもしれない。しかし新書版カバー袖の「結婚しました」という「著者のことば」、家系図と神話、神の死によって登場した分類の思考など、すべては周到に仕組まれている。

物語に身を副わせ、ここまで本格探偵小説を小説内で論じたことは賞賛に値するが、それが面白さに直結していないところがやや難点。

とはいえ新本格という形式に自覚的な探偵小説が、ここまできたかという感慨はある。

ちなみに本書を英訳するならば、タイトルは“The wooden prince”ではなく、“The prince tree”で間違いないと思う。

★★★★☆
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