小林信彦『現代「死語」ノート』(岩波新書) | 灰色の脳細胞:JAZZよりほかに聴くものもなし

小林信彦『現代「死語」ノート』(岩波新書)



小林 信彦『現代「死語」ノート』(岩波新書)

まったく小林信彦らしい本だ。「死語による現代史」という発想もそうだが、このひとの異様な記憶力。この本は、小林信彦という書き手をえてこそ可能であったに違いない。

さて本書は、昭和31年から昭和51年にかけての代表的な死語を取り上げつつ、当時の世相を思いで混じりに語るわけだが、面白いというよりもただただ感心するばかりである。

作者自身が書いているように、映画・小説→週刊誌→テレビという死語発生源の変化は、そのまま戦後日本のメディアの変遷史である。それにしてもかなり多くの死語がそのまま使われていること、つまり人造語というか、かつての流行語とも知らずに、そいつをわれわれが自然に使っているのには驚いた。といっても本人たちにそんな自覚はないだろうし、現代においてほとんどそれは自然な言語となっているということだ。

ともあれ戦後史の苦手なひとが本書をとっかかりにするのもアリなんじゃないか。各年代のイメージも湧くし、何気に政治経済も押さえられている。さらに索引もついているので、古めかしい本を読んでいて謎の言葉に出会った時などに当たってみるのも一興かもしれない。

しかし1000年後くらいにこんな本があったら、「残念!」なんてのも「武士道」の退廃、「ラスト・サムライ」の「士族の商法もここまできた」とかいって、めちゃめちゃに混乱して書かれそうだな。

★★★☆☆