サイド7というスペースコロニーの土木工学的なスケールについては、
なんとなく明らかになったわけですが、

このサイド7内部においてそこに生きる人々はどのような生活をしていたんでしょうか?
これについてはエピソード1においてザクで進入したジオン偵察部隊のジンが、
興味深い偵察映像を残してくれています。


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これがサイド7内部の住宅地エリアの状況です。

そもそもジオンの偵察部隊はこんな住宅地を偵察に来たのではなく、
1年戦争の緒戦において、モビルスーツという人型汎用兵器を開発したジオン公国が
その圧倒的な機械化歩兵師団の活躍により戦況を制してしまったことを
一気に挽回する目的で地球連邦軍が、「V作戦」と呼ばれる軍事作戦によって
新型モビルスーツとその母艦である強襲揚陸艦ホワイトベースを開発しているらしい
という情報をキャッチしたシャア・アズナブルの命による偵察行動です。

サイド7のどこかで連邦の新型モビルスーツが開発テストされているに違いない。
ということで、こんな住宅地をシャアの部下であるジンが双眼鏡で眺めていたというわけです。


ここで思ったんですが、宇宙世紀0079年という未来世界でありながら、
一般住宅はあんまり未来っぽいデザインではないな、
かといっていわゆる普通の建売住宅とも違うな、
という点です。
それはどんなところかというと、特に窓周りのデザインが微妙に角丸になっていて、
三角屋根をもつ住宅もありますが、これらは何か四角な直方体を積み上げた感じになっている。

むしろ、角丸の窓をもった直方体ユニットの上から屋根をかけて必死に家っぽく見せようとしている感じ。

これらを見ていてふと気付いたんですが、この住宅群はプレファブではないか?
ということです。
基本の開口部の大きさが皆揃っており、階高や建物の縦横寸法がほぼ同じ形状
の基本ユニットで出来上がっている。

プレファブというのは、現場事務所みたいなペラペラした小屋をいうのではなく、
元々、プレファブリケーション=あらかじめ工場生産しておく、というそんな意味です。

だから、これらの住宅はサイド7でサイド7に会社を構える大工さんや工務店がつくったのではなく、

地球のハウスメーカーで作られた住宅ユニットを輸送船で運んできて現地で組み上げたんではないでしょうか、

しかも、この住居ユニットは、セキスイハイムのM1だと思われます。



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このM1がどういうものかというと
1970年ですからちょうど大阪万博が開催されたころに、市場投入された工業化住宅の代表選手です。
当時一般の住宅工事単価が坪(畳二畳分)あたり18万円ぐらいといわれていたころに、13万円。
2割以上安かったわけです。

これは、それまでの現場で材料を集めて来て大工さんが切ったり貼ったり加工して、
組み立てていく建設工事の遣り方を圧倒的に刷新した。
あらかじめ工場で製品化されているコンテナユニットを現場で積み上げ連結することで家が完成する。
そのため現場での施工手間賃と施工期間が圧縮されるわけです。

「家がトラックに乗ってやってくる。」と言われていました。

このM1を設計開発したのは東大の内田祥哉研究室の大野勝彦氏。
当時の日本の建築界は黒川紀章氏が中心となって盛り上がっていた「メタボリズム」という、
建築や居住空間も時代や用途に合わせて変化成長する因子をもっていなければならないという、
建築思想運動のまっただなかでした。その代表がカプセルビルとかですが、多分にデザイン的処理による
思想表現の実現に傾いていましたので、特殊解としての建築作品的なロマンの意味合いが強いです。

一方セキスイハイムと大野勝彦たちのM1は、本当に工業化やユニット化によって住宅の建設コストを下げる。
同時に住宅を自動車や家電と同じように製品品質管理を一元的におこない、
将来のメンテナンスもサービス事業と捉えなおすということで、
プレファブ住宅をリアル&ビジネスとして成り立たせることを目的としています。

ところが、結果的にこのときの情熱的な設計開発によって生まれたM1は、
プレファブ住宅の白眉、工業化住宅の技術開発の典型的な事例としてある程度の成功を
納めましたが、ここがピークでこれ以降明らかに工業製品的な顔をしたプレファブ住宅は
消費者からは敬遠されるようになったのです。

これ以降は日本のハウスメーカーは、いわゆる商品化住宅と呼ばれるマーケティング主体の住宅イメージを中心とする住宅製造販売戦略に変わり、個別の部材や工法に「おいてはメーカー開発の製品がどんどん進化しましたが、工業化した「家」、バイクや自動車のようなプロダクトデザインの「家」は、消費者のニーズをつかめませんでした。

結果として、今となってはこの「M1」が、むしろレトロフューチャーとしての価値を持ちつつあるのですが、
DOCOMOMOというモダニズム以降の現代建築の博物的価値を認定する機関により、近現代の技術的デザイン産物としての歴史的価値を認められるようになっています。

が、スペースコロニーにおいてはこの「トラックに乗ってやってくる家」が再度復活していたんですね。



つづく