以前記事にしました谷口吉生さんの新作を撮影してきました。
場所は地下鉄銀座線外苑前駅を出てすぐの目の前、梅香院の隣です。
フォーラムエンジニアリング青山ビルです。

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このプロポーションを見てください。
一瞬何がすごいの?と思われると思いますがこの細い格子ごとがビルの階高さになっています。
建物というより行灯とかに近い構成、彫刻のようなシャープさ。
このような細いフレームですべてをガラス面にすることを可能にする構造のエンジニアリングはすさまじいものがあります。

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足元ですが、三方向に壁がありませんね。
おそらく真ん中から奥の壁面で地震力を負担させているな、と思うのですが、
軸力のみを負担していると思われるこの柱は仕上げで400角しかないんです。
アルミパネルでくるまれていると思いますので、耐火被覆を含めて考えると、
内部の構造柱は250角程度かもしれません。
一般的にこの高さのビルのラーメン構造の柱はこの三倍くらいの太さになって、床のもっと内側に出てきていると思うのですが、この柱は外壁を構成する窓枠にもなっているのです。
床の水平力はこの柱梁のフレーム層間でどのように処理しているのか興味がわきます。

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柱の足元を見ても柱脚部、柱頭部にコーナーを拘束するような部位がないんです。
これで剛接合になっているのでしょうか、、窓枠と柱材の中間的なスケールで構成されているため、
「まさかこの柱で支えられるはずがない」=「一種の軽ろ味というか魔法的な浮遊感」
がありますね。
このような外壁のシステムをベアリングシャーウォールというのですが、ニューヨークの超高層建築で使われる構造システムですね。
このひとつひとつの柱材をつつむパネルはアルミ生地色でなく
白い色味ステンレス金属反射系のシルバー着色を施されている。
この高さまで柱の面材が一枚にしてあり高さ方向での継ぎ目がありません。そのため完全角柱に見えます。

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そして、ガラスはたぶん1/4ハーフミラーになっており、このシルバーフレームになじませてあります。
巨大なペアガラスのため多少内圧でガラスにゆがみが生じますが、それを極力抑えてある。
そしてガラスは真ん中の方立て以外はどうやらサッシュレス、もしくは柱内部に飲み込まれた隠し框タイプのディテールになっています。
とするなら、この水平角型梁材は下からも上からも部材の取り合いを分担しており、
構造部として使えるスケールはもっと小さいということになります。

できあがって数ヶ月たっていますが、雨だれもフレーム表面についていないところを見ると、サッシュからの雨だれを内側に樋を設けて流して逃がすシステムを見えないところに組み込んでいると思われます。
パネルのディテール、サッシュの処理方法などは安藤忠雄さんの100倍すごいですね。
以上、このビルはとんでもないディテールデザインと加工精度と構造エンジニアリングで作られています。

メルヘンのような現代美術から借りてきたデザインコンセプトを語る建築家が多い中、ブツとして表現されたデザインコンセプトは建築というジャンルの中でまだまだいろんな表現が可能であることを示しています。
ここまでの執拗なディテール追求とデザインセンスは倉俣史朗さんが建築家としてよみがえってきたようなといってもいい。
むしろ建築という巨大で社会的制約も多く、多くの間接的な技術者の手を通していながら、ここまでのデザイン思想を追及している意味では、谷口さんはもうちょっととんでもない地平に向かっています。

この鋭くも涼しげな建築は、まったく日本的モチーフを使っていないにもかかわらず至極日本を感じさせるものになっているところもすばらしいです。