未来建築3巨匠の再一番手として登場するのはネルヴィです。
ピエール・ルイージ・ネルヴィ
(Pier Luigi Nerviは、1891年イタリア生まれ
100年近く前の人ですが、今見てもとんでもない構造と空間を実現した人です。
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1929年のフィレンツェ市立スタジアムで、幅100メートルはねだし22メートルという観覧席と屋根の一体構造という当時としても画期的な構造表現と、いわゆるただ単に力学的な最適性をもとめたのでもない優美な有機的なデザインを最小限の構造素材であるコンクリートと鉄筋で実現しました。

その実績が評価されその後イタリア軍からの依頼により多くの飛行機格納庫を設計していますが、これがもうすごいんです。

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両翼40メートルの格納庫の中から柱を無くしながら、飛行機の出入りのために全面開口という、まさに未来型ロボットが発進可能な建築をデザインしています。
ただ大きいだけではなく、建築の構成部材を最小限で、なるべく簡便な作業工法で、優雅で壮大な、ローマ時代のパンテオンやゴシック聖堂と同様の荘厳さを感じさせるものです。
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専門的な解説を加えるとこの構造方式はフェロセメント工法といわれる船を作るときに使われる固練りしたコンクリートを左官で擦り付けるという建設工法に、シェル構造方式というちょうど貝殻や卵の殻のように薄い曲面を三次元的に組み合わせ構造強度を発揮させるという構造システムの考え方です。
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つまり、ローマのドームに葉脈と竜骨のような構造部を設けることで、ドームの肉厚を極限まで薄くする、結果ゴシック建築に見られるような線材が束になって互いに強度を高めあうような、部分が全体に統合拡大されていくという建築というジャンル特有の直視的な世界観を示し、新しくてそして粗末なコンクリートという人工石による構造表現によって歴史的な伝統構造物を超えたのです。
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結果として、それまでの梁とか柱、床とか屋根といった構成エレメントに分解できない建物の有機的全体性によって、限られた養分から自身をつくりだす極小の海洋生命と同様の形態、同様の緊張感、同様の神秘性を獲得しています。

「神秘性」、この言葉をつかってまで、表現したくなるような建築がこの数十年間にあったでしょうか、究極のエンジニアリングは何か、人をして神の領域に近づけてしまうのかもしれませんね。

計算尺というある種手作業的な計算機を知っていますか?
私が高校生のころまでは数学の授業に出てきたんですが、細かい目盛りのついた定規が3枚組み合わさっており、定規を操作することでルートやサイン、コサイン、ログなどを導き出すことができるという魔法の定規です。

この計算尺を使い、実物に近い精巧な模型をつくり破壊実験する、そしてまた彫塑的に構造を練り直す、勘と経験と計算と美学が分離することなくないまぜになって全体が構想される。

そのような構想におけるアイデアの統合がそのまま建築に現れているのではないでしょうか、その証拠にこネルヴィは、晩年まで建築構造の解析にコンピューターを導入しませんでした。

むしろ計算によって導き出される最適解を否定していたともいえる。
なぜなら単純計算公式には仮定条件、前提条件が存在するため、その計算結果は仮定と前提の思考範囲を超えることができないからでしょう。
要は、本当はどこまで可能なのか!

ゴシック建築に匹敵するものが現代の技術で出来るのか!

そういったものを真摯に追い求めていった結果があのような有機的で宇宙的で未来的な建築を産んだのでしょう。



※計算尺とはどのようなものか、は下記のリンクで詳しく解説されています。
計算尺図書館