パオ流:観(現代上座部) | 仏教の瞑想法と修行体系

パオ流:観(現代上座部)

先に書いたように、パオ流での「観」は、「止」として「安般念」の第四禅(第五禅)まで到達してから行う場合と、「四界分別観」を行って近行定まで到達してそのまま「観」を行う場合があります。

ここでは、パオ流の「観」は「清浄道論」をベースにしていますが、中でも、詳細なアビダルマ哲学に沿ったパオ流の特徴が良く出ている、「名色分離智」とその前段階の「四界分別観」を取り上げます。


<四界分別観(四界差別)>

「四界分別観」は身体が四大に過ぎないことを知る瞑想法です。
「清浄道論」では「四界分別観」は「止」に分類され、様々な方法が説かれています。

パオ流では、まず、身体のある部分で、その後に全身の各部位において、四界の12の特徴を識別します。
具体的には次の通りです。

 地界:硬さ、粗さ、重さ、柔らかさ、滑らかさ、軽さ
 水界:流動性、粘着性
 火界:熱さ、冷たさ
 風界:支持性、推進性

最初のどの部分で感じるかは、例えば、次の通りです。

 推進性:呼吸する際の頭部中央
 硬さ:歯
 粗さ:舌で歯の先端
 重さ:ひざの上に置いた手の重さ
 支持性:直立した時の直立させる力
 柔らかさ:舌で唇の内側
 滑らかさ:舌で湿らせた唇を
 軽さ:指を上下させて
 熱さ:全身
 粘着性:皮膚、筋肉、腱など
 流動性:唾液

次に、12の特徴を四界にまとめて識別します。

集中が増して近行定に近づくと、「ニミッタ(禅相)」の光が現れます。
透明な光の中の空界の中に「色聚(ルーパ・カラーパ)」を識別します。
この段階に到達することを「心清浄」とします。
ここまでは「止」です。


<名色分離智>

次の「色聚」の中の色法を分析する段階からが「観」です。

「観」の階梯は「清浄道論」と同じですが、全体を通して獲得される智を「十六観智」と数えます。
「名色分離智」、「縁摂受智」、「思惟智」、行道智見清浄の10智、「道智」、「果智」、「観察智」です。

「観」の最初の段階の「見清浄」でで得られる智は「名色分離智」ですが、細かくは、次の4段階があります。

 1 色摂受智:すべての色聚の中の色法を識別
 2 名摂受智:すべての名聚の中の名法を識別
 3 名色摂受智:名色を一緒に識別
 4 名色分別智:名色だけがあることを認識

1、2の法の識別は、アビダンマ哲学に沿って、細かく分類された色法、名法をすべて識別するものです。
ですから、アビダンマ論の知識が必要です。

1の色法の識別は、簡略的な方法では、六処門(5つの感覚の精神作用と、法を対象とする意識)の中の「色聚」の中の色法を順次、識別します。
詳細な方法では、身体の四十二部分の中の色法を順次、識別します。
具体的な方法はとても細かくなるので、省略します。

2の名法の識別は、基本的には、「六処門」別に「心路過程」を識別し、その心刹那(刹那の様々な心)の中の名法を識別していきます。
つまり、感覚ごとに、刹那で生滅しながら連続していく心の中を観察します。

刹那の心は、無意識(有分)の状態から意識的に対象を認識して、また無意識に戻るまでの一瞬毎の心の作用を分析したものです。
心刹那は具体的には下記のようになります。

 禅定  の心路過程: 意門引転→遍作→近行→随順→種姓→禅定
 欲界意門の心路過程: 意門引転→速行心→彼所縁心
 欲界五門の心路過程: 五門引転→五識→受領心→推度心→確定心→速行心→彼所縁心

「引転」の前に「有分心」→「有分動揺」→「有分遮断」が、最後にも「有分心」があります。
各々の心の中には最大34の名法があります。

具体的な方法を簡単に説明すれば、次の通りです。

まず、意門(意識)の禅心路過程(具体的には初禅速行心の五禅支)を識別することから始めます。
「安般念」の初禅に入った後、そこから出定します。
そして、有分の中の似相を識別してから、一瞬毎の心を観察します。
その中の名法を、蝕・受・識のいずかから識別します。
最終的には、各心刹那の中に12~34の名法を識別できるようにします。
そして、名法としての、対象に向かう性質を認識します。
その後、第二禅から第四禅まで、同様に識別します。
その後、「安般念」以外の「止」の瞑想で、同様の識別をします。

次に、六処門の欲界の心路過程を識別していきます。
まず、法を対象とした善心から識別し、後に概念を対象とした不善心を識別します。
まず、意門から識別し、後に五門を識別します。
各心刹那の中の最大34の名法を識別します。

最後に、自分以外の外の名法を識別します。