『女神のタクト』(評価★★★☆☆) | 遠近法で描く中国 -2nd Season-

遠近法で描く中国 -2nd Season-

片手にピストル 心に花束 唇に火の酒 背中に人生を。 

著者:塩野武士
発行:講談社 / 2011年10月 / 単行本
ジャンル:小説、オーケストラ(クラシック)

<目次>

序章
第一章 その女、凶暴につき
第二章 宿無し女の初仕事
第三章 世の中はスイーツほど甘くない
第四章 白石麟太郎という男
第五章 天城越え
第六章 光の階段
終章

著者の塩野氏は新聞記者です。
なるほど、見出しや節の冒頭で、読者を惹きつけるテクニックはさすがです。
序章の、最初の一文は、このようにはじまります。
「女、三十にしてすべてを失った」(4頁)

主人公の明菜は、「職」と「男」をなくした傷心(?)旅行の途上、神戸・瀬戸内の海岸で奇妙な老人と出会い、潰れかけの地方の小オーケストラを再生すべく、関西を舞台に、たいへん個性的な面々と繰り広げてゆく、ドタバタ劇です。
でもちゃんと最後には、しっとりと泣き処も抑えていて、楽しめます。

デビュー作『盤上のアルファ』(2010年/未読)で数々の賞を受賞した著者の、期待の第2作です。
一部登場人物が前作とリンクしていたりするそうですが、知らなくても読み進められます。
ですが、登場する個性的な面々をもっと掘り下げて物語に生かしてもよかったのでは、という点では残念です。
そのあたりも次作、次々作に生きてくる、という狙いなのでしょうか。
全体的には爽やかで読みやすい作風です。

前作では将棋、今作ではオーケストラをテーマにしています。
著者自身記者であるからか、本作では新聞記者も登場します。
オケの定期演奏会でのプログラムが、最初の段階で、ラベルの「ボレロ」、ホルストの惑星より「木星」、ベートーベンの「運命」、エルガーの「威風堂々第一番」と誰もが耳にしたことのある曲を選んでいるので、クラシックに詳しくない人でも心配ありません。
逆に、このような小説からクラシックを聞きはじめる、というのもいいですね。
「なんで"天城越え"やねん」と、ぜひそこだけは、突っ込みながら読んでみてください。


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