S氏に仕事の好みを聞きました。簡単に類型化して説明すると、早く帰れるか、遅くなるがその分報酬の多いのと、どちらがいいかと云う二者択一です。私としては、気を遣ったつもりでした。

 S氏、短く低く唸ってから曰く、「仕事に好みは持たないことにしています。好みを持つと仕事が出来なくなりますから。」

 蓋し名言。

 どんな仕事であっても、プロの仕事と云うのは、こうあるべきでしょう。仕事はやる以上は、決して、好き嫌いどころか、濃淡さえも付けるべきではありません。それができなくなった瞬間に、プロの仕事ではなくなります。

 人の能力は有限ですから、プロであるためには、仕事の量や幅を自ら制限しなければならないこともあります。

 重々分かっていることですが、S氏との短いやりとりは、プロとしての矜持を肝に銘じさせる出来事でした。