中々正常なつぶやきに戻れませんが、今日は旧マネックス証券が2000年の上場前に行った「無額面化、一円割り当て増資、事実上の64分割」について、一部で誤解があるようなので御説明します。

 これは上場前の事実上の分割であり、株価を引き上げる為でも、一部の株主に利するものでもなく、当時の法制度の中で、個人投資家にも買いやすい価格で新規公開株式を発行する方法を考えて、当時の大蔵省、法務省、東京証券取引所と確認した上で実施したものです。そしてこの流れを受けて、法務省は単元株制度を制定したのです。

 当時、商法の規定で、額面株式1株の純資産価値は5万円を割ってはならないという規制がありました。その為、実物資産をあまり持たず、知的資産が高く評価されている会社の株式は、1株の価格が極端に高くなる現象が発生していました。当時、1売買単位が数千万円の株とか、新規公開株式も1購入単位が数百万円の株がゴロゴロしてました。

 より良い投資環境を多くの個人投資家に、という考えで創業した私たちが、自社のIPOで、1株数百万円では洒落になりません。そこで考えたのが株式を先ず無額面化して1株あたりの純資産規制を受けないようにし、その時点での全ての株主に持株比率に応じて株式を1円で割り当てるという方法です。全ての株主に持株比率に応じて割り当てているので、これは事実上の分割となります。割当額は便宜上1円としましたが、これは経済的にはあまり意味を持ちません。

 私たちはこの方法を使い、事実上の64分割をしてから、公募価格4万5千円で上場しました。もしこの手法を取らなかったならば、公募価格は288万円になっていたことになります。因みに当社は上場後に株式分割をしたことは一回もありません。個人投資家でも買いやすい価格で株式を流通させたいならば、或いは流動性を高めたいならば、上場前に予め分割をしてそのような準備を整えてから上場すべきであるからです。

 この手法は、当時商法改正を行っていた永田町・霞ヶ関でも注目を浴びました。マネックスの使った方法によれば、純資産規制等を定めていた当時の単位株制度を商法改正の対象に入れなくても、便法として、より低い1売買単位価格での株式流通を実現できるではないか。そういう議論が出たそうです。しかしそれでは新たに上場する会社は確かに便法として利用できますが、既に1売買単位何千万という価格で取引されている株は、ずっと個人投資家からは高嶺の花になってしまいます。

 そこで私はひょんなきっかけで、当時の法務大臣に会いに行くことになりました。広く個人投資家が株式投資を始められるように、この件を便法で済ましてはいけない、単位株制度の純資産規制は撤廃すべきだとの説明を私の口からする為です。その場では「分かった」とは言ってくれませんでしたが、数ヶ月後に単元株制度が制定され、事実上私たちの主張は採り入れられ、新たな時代が始まったのです。単位株制度の改革は、取引所を含めた当時の株式関係者の強い願いでした。そして東証が、取引単位の引き下げを上場企業に要請し始めたのです。

 私たちの行った「無額面化、一円割り当て増資、事実上の64分割」には、そういった歴史があります。上場前と上場後では、天地ほどの差がありますし、意図することによって、意味も全く違うものです。資本市場は簡単なようで複雑です。これからも一つずつしっかりと御説明していきたいと思います。