象亮 第一話「床下を抜けるとおれはバッタだった」(後編) | ミドさんのばった寿司

象亮 第一話「床下を抜けるとおれはバッタだった」(後編)

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うろたえる亮と、なんと声を掛けていいかわからない綾。


そのとき、亮の動きがぴたりと止まり綾が聞いたことのない声でしゃべりだした。


象飛蝗「ふう…女みてえな顔のくせしてしぶてえ野郎だったぜ」


綾「あんた…誰?」


象飛蝗「俺か?俺は象外鬼最強の男…あ、象飛蝗(しょうほっぱー)さまよ!」


象飛蝗は歌舞伎の見え切りのように名乗り口上をあげた…が、動きと声があまりにもある人気キャラクターにそっくりだったため


綾「モモタロスみたいw」


と、完全になめられてしまった。


象飛蝗「なんじゃそりゃ…あ!てめえ!よく見たらお綾じゃねえか!」


綾「おりょう?あたしは綾だよ。りょうはあんたのせいでバッタの化け物になっちゃったそっちの男の子だよ」


象飛蝗「しらばっくれんじゃねえ!恰好は違うがそのおこちゃま顔といいチビのくせにクソ長いお下げといいでけえ胸といいお綾そのものじゃねえか!」


頭ごなしに言われても綾には当然ながら何のことかとんちんかんである。


象飛蝗「象不死鳥(しょうふぇにっくす)に肉体を滅ぼされ魂だけになった俺にさらに追い打ちをかけるようににっくきあいつらとまとめて封印しやがって…」


ここまで言われて綾の思考回路がようやくつながった。


綾「わかった!さてはあんた、あたしのご先祖様が封印した化け物ね!」


象飛蝗「ご先祖だぁ?…いま何年だ?」


綾「2009年。あんたたちが封印された1709年から300年後の世界よ」


象飛蝗「2009年…そうか、ようやく封印が解けたと思ったらそういうことだったのか…」


綾「完全には封印できなかったみたいで、300年後にまた暴れるから今度こそ完全に封印しろって…」


象飛蝗「そうか、だいたいわかったぞ…」


綾「なにが?」


象飛蝗「お綾にそっくりということはおめえがお綾の力を受け継いだ子孫だ、つまりてめえを殺せば俺は晴れて自由の身ってわけだ」


綾「なるほどね…って、えぇー!」


象飛蝗「象不死鳥をぶっ殺すのもいいが、まずはてめえでウォーミングアップと行くぜ!覚悟しやがれ!」


綾「やだ!」


象飛蝗「答えは聞いてねえ!うらー!」


象飛蝗の右拳が綾に迫る!


綾「亮くん、助けてー!」


その時!


バキッ!


象飛蝗は自分の左拳にKOされた。


同時に飛蝗の化け物は亮の姿に戻った。



亮「あぶねえあぶねえ、おれの体使って綾ちゃんに乱暴働こうなんてとんでもねえ野郎だ…間に合ってよかった^^;」


綾「一時はどうなるかと思ったよ…あのまま亮くんがバッタの化け物になっちゃうんじゃないかと」


綾は涙目で亮を見る。


亮「泣くなよ…おれがあんな殺虫剤吹っかければ退散するのの化け物なんかにやられるほどやわじゃねえっての」


綾「泣いてないから!」


綾はそっぽを向いてごまかす。


亮「ああ、そうだ、大変なこと言い忘れるとこだった」


綾「なになに?」


亮「おれがあのバッタ野郎に取りつかれる直前なんだけど、この社の鍵開いててさ…中にバッタ野郎みたいな化け物がうじゃうじゃいたぞ」


綾「ええ!?」


亮「写メっとくんだったなあ…」


綾「そんな状況じゃないでしょーー;」


亮「確かに(笑)」


綾「それで、その化け物はどうしたの?」


亮「おれに気づいて外に追っかけてきたけど…おれはネズミ返しの下に隠れてたからバッタに取りつかれたあとは知らない」


綾「それ、ここに封印されてた物の怪だよきっと!」


亮「つまり、このおれの中に居座ってるバッタ野郎の言うとおり封印が解けたんだな…おい、バッタ!なんで封印解けたか説明しろ!」


亮は自分の深層世界にこもっている象飛蝗を問い詰めた。


象飛蝗「知らねえよ!ただ、封印が解けたころにはやったらドカとかバキとか大砲の弾が当たったような音がしたな…」


亮「大砲?んなもんねえよ」


綾「もしかして亮くんの蹴ったサッカーボール!」


亮「それだ!しょっちゅうおれん家のほうから蹴りそこなって誤爆してたからなあ…」


綾「ホント罰あたりだね、そりゃ取りつかれても文句言えないよ」


亮「そうだなあ…待てよ、てことは封印解けたのもおれ一枚噛んでる?」


綾「かもね…^^;」


亮「ハッハッハ…笑うしかねえけど笑い事じゃねえ!」


亮はようやく事の重大さに気がついた。


亮「おい、バッタ!封印するからさっさとおれから出ろこの野郎!」


象飛蝗「俺は象飛蝗だ!冗談じゃねえ、せっかく蘇ったのにまた封印されてたまるか!」


一つの体で喧嘩する様は、見てて滑稽だった。


綾「バッタさんも災難ね…亮くんに取りついたということはモモタロスがモモタロスに憑依したようなもんだからね^^;」


亮「そりゃいい、モモタロスにモモタロスが…誰がモモタロスだ!」


象飛蝗「とりあえずこいつとてめえは殺す!」


亮「冗談じゃねえ、お前がもう一回死ね!」


一人でバタバタする亮とそれを笑いをこらえながら見る綾。


待ち切れずにやってきた洋井と戸次がその光景を見て思ったのは


洋井「亮さん…綾によっぽどくだらねえいたずらやってしばかれたのか?」


戸次「いや、亮が調子に乗ってルパンみたいに迫ったから綾にしばかれたんだろ」


どちらも亮の悪ふざけによる痴話喧嘩と思ったようだ。


彼らの知らぬところで亮と綾、そして世界はえらいことになりつつあった…。



象不死鳥「あの大女は見つかったか?」


象軍隊蟻(しょうあーみーあんと)A「見つかりません!」


象不死鳥「くそ、人間の分際でなんという逃げ足の速い…」


象軍隊蟻B「しかし、あの社よりねぐらにするに相応しい場所を見つけました」


象不死鳥「よし、案内しろ」


象外鬼の集団は、山奥の防空壕を見つけ出し、そこをアジトに改修していた。


象不死鳥「ここを我ら象外鬼の地上征服の拠点とする!まずは我らを封印した人類を始末してやろうではないか!」


象外鬼一同「オーッ!」


象不死鳥「まずは人類が忌み嫌う蜘蛛にそっくりな象蜘蛛(しょうすぱいだー)、貴様がひと泡吹かせてこい!」


象蜘蛛「御意!」


長き眠りから覚めた象外鬼も、動き出した。



次回「クモ行き良好?」