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いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう


太田匡彦・sippo|更新|2016/01/26

第13回 猫ブームの危うい側面 犬の二の舞いを踏むな

「猫ブーム」がきている。朝日新聞社のペット情報サイト「sippo」でも猫関連の記事が常にアクセスランキング上位を占める。だがこのブームには危うい側面がある。犬の生体販売ビジネスで起きたことと同様の問題が、猫でも起きるかもしれない──そんな危惧をいま抱いている。

 猫の入手方法は現在、「野良猫を拾った」が42.2%を占めており、「ペット専門店」は14.7%にとどまる(2014年、ペットフード協会調べ)。46.5%がペット専門店からの犬とは、現状が異なることは確かだ。しかしかつては犬も、野良犬を拾ってきたり、近所で生まれた子犬をもらってきたり、が主流だった。大規模な生体の流通・小売業者が登場し、ペットオークション(競り市)というビジネスが成立したのは、この20、30年のこと。猫も当たり前のようにペットショップで買う日が来ないとは限らない。

 実際、グループ合わせて全国約60店を展開する大手ペットショップチェーンでは、これまで犬9割強、猫1割弱だった販売頭数比率が変わりつつある。ここ数年、猫の販売頭数が前年比10~20%増で伸びているためだ。また全国で約100店を展開する別の大手では、前年比3割増で猫の販売頭数が伸びており、販売比率はすでに犬8割、猫2割になっているという。

 先のペットフード協会の統計を見ると、30~60代では、年代が若くなるほど猫をペット専門店から入手する割合が増えていることも気になる。30代では22.8%に達し、野良猫を拾うという入手方法(27.7%)に迫りつつある。

 猫にも大量生産、大量消費のビジネスモデルが浸透していく可能性は低くない。そして猫の場合、大量生産が始まった時には犬以上に過酷な環境に置かれる可能性がある。

 猫は狭いスペースに保管でき、吠え声による騒音トラブルも起きにくい。以前取材した猫の繁殖業経験者によると、都市部のマンションの一室で繁殖を行う業者も少なくないという。つまり犬の繁殖業に比べて猫のそれは、監視の目が届きにくいとも言える。

 さらに猫の雌が犬と違うのは、一定の日照時間を得ることで繁殖が可能になる長日繁殖動物だということ。日本の気候では一般的に年2回、繁殖をする。ところが照明を当て続けると年3回以上の繁殖も可能になる。ある大手ペットショップチェーンは繁殖業者らに「年3回の出産は若い雌猫なら体調の異常を起こさない」などと説明し、1日12時間以上、照明を当てることで繁殖効率が高まる「技術」を紹介している。

 これまで動物取扱業への規制強化の議論は犬を中心に行われてきた。だが環境省などの関係当局は、今から猫ビジネスの裏側にまで目を光らせておく必要があるはずだ。猫をめぐる環境が近い将来、「犬の二の舞い」を踏むことがないように。

(太田匡彦)


(朝日新聞タブロイド「sippo」(2016年1月発行)掲載)

太田匡彦

太田匡彦(おおた・まさひこ)

1976年生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当。AERA編集部記者を経て14年からメディアラボ主査。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日新聞出版)などがある。