日本経済新聞からです。

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ジンバブエの人気ライオン射殺 猛獣狩りに焦点


2015/8/3 6:30


ジンバブエで、そして今や世界で最も有名なライオン「セシル」が米国人歯科医に撃たれてから40時間苦しんで死んだとき、セシルは少なくとも、それまでの13年間を自由に歩き回って過ごせただけ幸運だった。


 対照的に、アフリカ南部の6000頭ものライオンは、裕福な観光客の狩りの対象となる目的で、捕獲状態に置かれて飼育されている。




狩りの犠牲になったセシル=Wildlife Conservation Research Unit・AP


 世界中の怒りを買って身を隠している米ミネソタ州の歯科医、ウォルター・パーマー氏によるセシル射殺は、アフリカ南部の猛獣狩りにスポットライトを当てた。米国に本拠を置くワイルドエイドのピーター・ナイツ専務理事によれば、同産業は推定で年間10億ドル前後の価値があるという。


 セシルはジンバブエの動物保護区から違法におびき出されたとされる。セシルの死を巡っては2人の男が逮捕されており、ジンバブエの裁判所で密猟の罪に問われる可能性がある。一方、パーマー氏は自分が法律に違反していることを知らなかったと主張している。とはいえ、モザンビークやナミビア、タンザニアと並び、ジンバブエの一部でも狩りは合法だ。


■合法的な狩りで年900頭が犠牲


 一方、南アフリカ共和国には、南アに来て、狩りに数十万ドル支払う裕福な観光客のためにライオンを飼育することを主目的とする牧場が200戸ある。南アフリカ捕食動物連盟のピーテル・ポットヒテル会長によれば、毎年約900頭が合法的な狩りで殺されている。「残りは観光目的のために飼育されており、一部は主に中東とアジアに輸出されている」と同氏は言う。


 この行為は「キャンド・ハンティング」(おりなどで囲われた土地で、狩猟目的で育てられた動物を狩ること)として知られるようになった。幼獣は通常、小さいうちに母親から引き離され、観光客にとって危険になるまで、かわいがるために飼われる。完全に成長しきったら、ハンターの獲物にされる仕組みだ。


 ポットヒテル氏などのキャンド・ハンティング支持者は、こうした狩りは種を保全するために欠かせないと言う。「捕獲状態で飼育されたライオンを狩ることで、野生のライオンに対するプレッシャーが取り除かれる」と同氏。「野生ライオンの狩猟の減少と、飼育ライオンの狩猟の増加の間には、直接的な関連性がある」


実際、野生動物保護団体は、南アフリカでは、野生ライオンの生息数が安定したようだと認める。また、ライオンは危険にさらされているとみられているものの、サイなどの他の種ほどは絶滅の危機にひんしていない。だが、ワールド・アニマル・プロテクションで野生動物保護キャンペーンの国際代表を務めるアリシア・クロー氏は、野生のライオンは3万5000頭足らずで、推定「当初」生息数の7%未満だと指摘する。それでもハンターたちは、狩猟産業は動物の数を保全し、環境を保護する助けになっていると主張する。




パーマー氏が経営する歯科医院の前で、セシルを射殺したことに抗議する人たち(7月29日、ミネソタ州ブルーミントン)=AP



■ハンターは「保全活動家だ」


 「動物がいなければ、狩りはできない」。タンザニア狩猟業者連盟のアブドゥカディル・モハメド事務局長はこう言い、ハンターは大規模な野生動物生息数に収入を依存しているため、基本的に保全活動家だと主張する。また、ハンターは地域社会にお金を還元しているうえに、動物の数を増やすことを目指し、動物と環境を密猟者から守っていると指摘する。


 モハメド氏は、ライオン狩りの許可にかかる費用は5000ドルだが、狩猟旅行の総費用は5万ドルから最大20万ドルに上ることがあり、タンザニア政府に毎年1200万ドルの収入をもたらしていると言う。


 観光収入の大部分をサファリツアーに依存するケニアは、独立後まもなく猛獣狩りを禁止し、比較的最近では、狩猟鳥の狩りも禁止した。だが、一部からは再考を求める声が上がっている。


 「アフリカ大陸の狩猟は絶望的なまでに腐敗していると思うが、適切に管理されれば、売り上げを保全支援に還流させる便利な道具だ」とマイケル・ダイアー氏は言う。同氏は保全派に転じた元ハンターで、最近、ケニア高地にある自分の牧場にサイを入れた。22頭のサイを守るために、完全武装した民兵に似たフルタイムの警備員チームを雇っている。


 セシルに対する世間の反応が示したように、狩猟は今も感情に訴える問題だ。ライオン慈善団体のボーン・フリーは、狩りのトロフィー(剥製などの記念品)の輸入を阻止する運動に加わっている組織だ。アラブ首長国連邦(UAE)の航空会社は最近、世論の圧力に応えて、禁止措置を講じた。だが、ハンターたちは一部の議論に打ち勝っている。この7月、南アフリカ航空は激しいロビー活動の後、ライオンのトロフィーや皮の輸送禁止措置を撤回した。


 「南アフリカにとって業界は重要だと彼らに教えてやった」とポットヒテル氏は言う。「それから、業界を支援するのが政府の政策だとしたら、なぜ国を代表する航空会社がその政策に反対すべきなのか、と」


 前出のナイツ氏は、写真ハンターが銃を背負ったハンターに勝つことを期待している一人だ。「強力なライフルより、カメラ1台だけで身を固めて大きな動物を追う方がずっと勇気がいる」と同氏は話す。



By John Aglionby in London and Katrina Manson in Nairobi


(2015年7月31日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)


(翻訳協力 JBpress)


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