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馬の余生を救うためには
2015年02月23日更新
日本で馬を見られるところと言ってすぐ頭に浮かぶのは、やはり競馬場か乗馬クラブでしょう。その通り、日本にいる馬の大多数は競馬か乗馬で使われ、人間のために働く一生を送っています。
日本では競馬に使われるサラブレッドだけでも、年間約8000頭が生産されています。でも、私たちが暮らしている日常で、馬の姿なんてほとんど見かけませんよね。
毎年8000頭も生まれている馬は、どこに行ってしまうのでしょう?
結論から言います。99%の馬は寿命を終えることなく、殺処分にされるのです。牛や豚と違って、食用に生産されているわけではないのに、人間と共に暮すために生産されるのに、ほとんどが人間の判断ひとつで屠殺場行きです。
「競馬は残酷だ」「馬を野生に帰してやれ」そう言うのは簡単です。しかし、今すぐ競馬を廃止し馬を野に放つなんて、現実的に不可能です。
ここでは、一頭でも多くの馬に幸せな一生を送ってもらうため、私たちに何が出来るのかを考えていきたいと思います。
競馬の成績は死活問題
馬の寿命
日本の馬の最長寿記録はシンザンという、競馬で活躍した馬の35歳です。何もなければ、馬は30歳まで生きれば大往生といったところです。
ところが、実際の馬の平均寿命は10歳前後とされています。本来の寿命を終えることなく殺処分されているという事ですね。
馬が競馬で走れるのは6~8歳まで、中央競馬では13歳まで現役でレースをしていたミスタートウジンや、地方競馬では15歳でも現役のハイフレンドピュアともなると、すごいすごいとニュースになるほどです。
競馬を引退したら
では、競馬を引退した馬はどうなるのでしょう。
JRAのホームページや、サラブレ、優駿といった競馬雑誌には、今月の登録抹消馬というページがあり、行き先が載っています。
- 競馬でよほど優れた成績を残したオスは種牡馬
- まだ力のある馬は地方競馬場
- メスなら繁殖牝馬
- その他は乗馬
というのがだいたいの内訳です。それでも、地方競馬場で現役を引退したら?高齢で繁殖に使えなくなったら?という疑問が残ります。
馬の一生の最後の最期
繁殖入り(種牡馬・繁殖牝馬)したからと言って、牧場が一生面倒を見てくれるわけではありません。
競馬のレースで輝かしい記録を収めた馬でも、繁殖として後世に良い子孫を残せなかったり、高齢で繁殖できなかったりすると行き場を失います。
競走馬として大活躍しファンも多かったのに、種牡馬として成績がふるわなかったため殺処分された馬にはファーディナンド、シンコウフォレストなどがいます。
競馬ファンなら一度は耳にしたことのある名前でしょう。伝説になるくらいの成績を残し、種牡馬ちしての役目を終えてもなお功労馬として生き寿命をまっとうできるのは、先に挙げたシンザンなど、わずか一握りの馬だけなのです。
第2の馬生を歩む馬たち
乗馬になれば一安心?
さて、乗馬用になるのは
- 競馬で良い成績を残せなかった馬
- 血統の良くない馬
- 去勢された馬
などです。
競馬では早く走るための調教を受けていましたが、乗馬で人を乗せるためには「走るな!おとなしくしろ!言うことを聞け!」という、今までとは正反対の調教を受けます。
ここで乗馬への転用調教がスムーズにいけば、乗馬クラブで20歳程度まで働きますが、どうしても競馬時代の気性の激しさが抜けない、歩様が悪い、クセがあるなどの場合は、やはり屠殺場へ送られてしまいます。
どんな馬でも、時間をかけて丁寧に人との信頼関係を築けば良いパートナーになるものですが、競馬を引退した馬は毎日次々と乗馬クラブにやってきます。
一頭の馬にそれほど時間をかけていられないというのが現状なのです。
年老いた乗馬は?
乗馬への転用調教が上手くいき、乗馬として第2の馬生を歩み始めても、それで死ぬまで安泰とはいきません。
乗馬用の馬の勤めは人間を乗せて競技することです。使役動物として人間に繋養(馬を飼うこと)されている以上、その勤めが果たせなくなったら存在理由がなくなってしまうということです。
乗馬としてのピークは15歳と言われます。寿命までまだ10年以上ありますが、それまでに人間を乗せる体力はなくなってしまいます。年老いた馬は、それまで長い間、人間と共に暮らし、人間のため働き続けても、使えなくなった馬を養える経済力と、時間のある乗馬クラブはそう多くありません。
やはり、屠殺場に送られてしまうことが多いのです。
馬の老人ホーム
競馬ファンも乗馬クラブの客やスタッフも、誰も好き好んで馬を処分しようとは思いません。経済的、場所的、時間的余裕が無いため止む無く処分するというケースがほとんどの中、そういった年老いた馬たちの面倒を最期までみようという場所が、養老牧場です。
しかし、競馬で稼ぐことも、乗馬として稼ぐことも出来ない馬たちをどのようにして養っておくかが重要な問題となってきます。乗馬クラブへ馬を預けた場合、預託料が月に10万前後かかります。好きな馬を生かしておくためとは言え、この出費を誰でも負担できるわけではありません。
馬は、犬や猫のような愛玩動物を飼うようにはいかないのです。体も大きいのでエサ代もかかる、運動させるのに土地も要る、獣医も専門でないと診療できないのです。
養老牧場でのんびり暮らす馬たちの費用はどこから出ているのでしょうか?
馬との共存
まだまだ未来のあったはずの馬が殺処分されゆく現実はお分かりいただけたと思います。
サンエイサンキュー、ハマノパレードといった馬名を検索していただければ、人間側の都合によって不遇の死をとげた馬の話はたくさん出てきます。
では、可哀想だから競馬も乗馬もやめてしまえばいいかと言うと、そんなに単純なものではないのです。
よく、馬は人間に乗られてムチで打たれ、無理やり走らされて哀れだと聞きますが、馬が日本に入ってきた4~5世紀の頃にはすでに、農耕馬や騎乗用としての役割が確立していました。人間と共に生きるには、人間の役に立つ経済動物としてしか、今の日本には馬の需要はないのです。
それに加えて、馬は運動することにより血液を循環させているため、人間が乗り運動することが、馬の生命維持にもつながっています。脚を骨折した馬の治療をしても、他の疾患により死んでしまうことが多いのは、この血液の循環機能が働かなくなるという要因も含んでいるのです。
馬の余生を支援する
養老牧場で里親に
個人では、処分されゆく馬を救えなくても、養老牧場に馬を移動し、何人かで馬の里親になるという方法があります。
直接、その馬の世話をしなくても、養老牧場のスタッフが全面的に世話をするのを金銭的にサポートするだけです。会いたくなったら馬に会いにいけばいいし、自分で馬を引き受けるよりずっと負担が軽く済みます。
など、寄付を受け付けている牧場はたくさんあります。
乗馬人口を増やそう
もう一つ、処分される馬を減らすのに大切なことがあります。
日本の乗馬人口を増やし、多くの馬が必要とされる環境を作ることです。しかし、これは一朝一夕にはいきません。あなたがもし、「殺される馬がかわいそう」と思うのなら、近所の乗馬クラブを探していってみてください。
人間のために働く馬たちは、人間と信頼関係を持ち、自分の仕事に喜びを持って取り組んでいます。決して人間が無理強いして、嫌がる馬の背に乗ってはいません。
馬の仕事に携わる人は、馬の幸せを第一に考えています。競走馬時代のつらい調教も、その馬がレースで勝って少しでも繁殖に上がることができるようにと願いを込めながら行っています。
現時点では、乗馬をするのは一握りのお金持ちや馬好きの人だけですが、日本にもっと馬に乗る人が増え、たくさんの馬が必要とされるようになれば、処分にも歯止めがかかるはずです。
おわりに
馬がかわいそうと叫ぶだけではなにも始まりません。まず馬を知り、馬に触れ、馬がかわいそうでなくなるよう、馬と共存するのが、馬にとっても人間にとっても理想です。
馬は友達、馬は家族と言える世界。それが本当の人馬一体なのかもしれません。