中日新聞からです。

http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2014122402000072.html



2014年12月24日 朝刊

牛の放射線調査、負担重く 福島・浪江町の牧場

牛を取り囲み採尿、採血をする研究者ら=福島県浪江町の小丸共同牧場で

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 福島第一原発事故のため帰還困難区域となった地域で、一部の畜産農家や研究者が牛の管理を続けている。放射線の影響を長期観察するため手弁当で続けているが、資金が不足し、世話をした牛が死ぬなど、多くの課題に直面している。


 活動するのは、大学の研究者と農家、獣医師でつくる「原発事故被災動物と環境研究会」(旧・家畜と農地の管理研究会)。牧場で牛の健康を管理しながら、牛や農地への放射線の影響を調査している。


 福島第一原発から北西十一キロにある福島県浪江町の小丸共同牧場。今月の調査では、空間放射線量は毎時二〇~二五マイクロシーベルト。年間一七五~二一九ミリシーベルトで、人体に影響がない上限とされる年一〇〇ミリシーベルトを超える。


 研究者らが五、六頭ずつ狭い場所に追い込み、ふんや毛を採取し、嫌がる牛をなだめて採血した。血液はすぐ動物用診療車に運ぶ。


 約三十頭の牛は同じに見えるが、農家の渡部典一さんが「これは昨年十一月に生まれた、ひかり」。復興への願いを込めた名前。雄牛はすべて去勢され、ひかりは最後の子牛だ。


 こうした牧場は浪江町や隣の南相馬市などに六カ所あり、約二百頭の牛がいる。農家は無償で世話をし、研究者も手弁当。一頭の飼料代は年間二十万円近い。最近は寄付が減り、農家が一部を負担する。


 山本牧場(浪江町)では、二十センチほどの腫瘤(しゅりゅう)のある牛が見つかった。八歳の雌で名前は「りかちゃん」。飼い主の山本幸男さん(72)、シヅ子さん(71)夫婦の孫娘と同じ名だ。


 十一月に牛舎の横で腫瘤の摘出手術を始めた時、他の牛が近寄ってきた。「仲間を心配して来るの。お産の時もよ」とシヅ子さん。だが、手術の最中、麻酔が効いているはずのりかちゃんが突然、暴れだし、誤嚥(ごえん)により窒息死した。


 避難先から二日に一回は世話に通った幸男さん。「半端じゃないよ、生き物を飼うってのは」。岩手大の調査で、腫瘤は脂肪の塊などで放射線の影響はなかった。ただ、原発事故前のように普通に世話ができていれば、そもそも大きな腫瘤にならなかった。幸男さんは「身内を亡くしたみたいだ」とつぶやいた。


 事務局長の岡田啓司岩手大准教授は「現在、牛に被ばくによる異常は認められない。牛は十五~二十年は生きるので、放射線の遺伝子などへの影響を長期観察できる。データは人の健康を考える際にも役立つ可能性がある」と意義を語る。

(福島駐在編集委員・井上能行)



 <警戒区域内の動物> 政府は2011年5月、福島第一原発から半径20キロ圏内の旧警戒区域に残された家畜を、所有者同意の上で全頭殺処分するよう福島県に指示。農家の反発を受け12年4月、出荷禁止を条件に飼育を認めたが、公的な援助はない。