西日本新聞からです。

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/91873


ペット多頭飼育、絶えぬトラブル 鳴き声、飼い主入院で引き取り

2014年05月31日(最終更新 2014年05月31日 14時24分)



鳴き声がうるさいなど、ペットの「多頭飼育」をめぐる近隣トラブルが絶えない。今年1月には、福岡市で60匹を超える猫を飼っていた30代男性が緊急入院し、市が特例で収容する事態も発生。動物愛護団体の尽力で殺処分されずに新たな飼い主に引き取られたが、「これは氷山の一角」(市生活衛生課)。周囲に迷惑を掛けない動物愛護はどうあるべきか。関係者は対策の必要性を訴える。


 松の内が明けたばかりの1月10日。福岡市東部動物愛護管理センターに一本の電話が掛かってきた。「1人では飼えない」。市内のマンションで猫61匹を飼っていた男性と同居している女性からだった。


 昨年9月に改正動物愛護管理法が施行され、自治体はペットの引き取りを拒否できるようになった。センターも一度は「新たな飼い主を探してほしい」と断るが、数日後に同じ女性から「やっぱり引き取って」。結局、捨てられた場合の周辺環境の悪影響を懸念し、特例での収容を決めた。

 通報の時点では61匹だったが、引き取る前に1匹が死に、9匹は新たな飼い主が見つかった。センターでは職員が部屋を改造し、51匹を収容。動物愛護団体と連携しながら新たな飼い主を探し、4月中旬までに51匹すべて引き取られた。

 そもそも、なぜこうした事態に陥ったのか。市によると、男性が飼い始めたときはペットショップで購入したアメリカンショートヘアと拾った野良猫2匹の計3匹だった。それから16年を経て61匹に繁殖。健康状態は良好でトイレのしつけもされていたが、不妊・去勢手術が施されていなかったという。通常、1歳前後で成猫になり、年に2~3回、一度に5~6匹を産めるようになる。野良猫の寿命は4~5年ほどなのに対し、栄養や衛生面で恵まれたペット猫は長くて20歳くらいまで生きる。繁殖を抑制して適正に飼育するには不妊・去勢手術が欠かせないが、雌の不妊に3万~4万円、雄の去勢で2万円前後かかる。費用面だけでなく「かわいそう」と敬遠する飼い主もいる。

 センターの井之上尚文所長は「かわいいので手放したくない、体にメスを入れさせたくないからといって安易にペットの数を増やせば、結果的に飼えなくなって殺処分に追いやってしまう。飼い主は自分の責任で最後まで面倒を見る覚悟を持ってほしい」と訴える。

 ●「不妊・去勢手術など責任持って」

 動物愛護団体「TNR-博多ねこ」の木本美香代表の話 「愛情よりもまず管理」「殺処分という選択肢はない」。これらはペットを飼う上で忘れてはいけないことだ。不妊・去勢手術もせず安易に増やし、飼えなくなったら自治体に持ち込んで他人任せで処分するのは無責任。家族や知人も、飼い主が育てられなくなったときのことを考えておく必要がある。1人暮らしの高齢者や年金受給者、生活保護世帯を担当する自治体職員にも周知してほしい。多頭飼育で相談してくる人のほとんどが「頼む人がいない」と言う。表面化したときには手が付けられないということにならないよう事前に手を打ち、受け皿をつくっておくのが動物福祉の今後の課題だ。

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 ●届け出制導入の自治体も

 自治体が犬や猫などペットの引き取りを求められた場合、原則、受け入れなければならない。ただし、昨年9月に改正動物愛護管理法が施行され、(1)業として営んでいる(2)繰り返し引き取りを求めてくる(3)不妊・去勢手術をしていない(4)高齢、病気が理由(5)飼育が困難と認められない-場合は拒否できるようになった。

 今回の福岡市のケースは(3)に該当する。収容に踏み切ったのは、数の多さと近所への悪影響を考慮したからで、あくまで特例。北九州市でも昨年12月、入院した飼い主の家族から相談があり、市動物愛護センターに数十匹の猫が引き取られた。

 多頭飼育では、鳴き声がうるさい▽庭や道路に排せつする▽ノミやダニが発生する▽毛が舞ってアレルギー反応を起こす-など、近隣からの苦情が絶えない。動物愛護管理法ではペットの飼育数の規制はないが、環境省によると、佐賀、滋賀、長野、山梨、茨城の5県が一定数以上を飼う場合に届け出を求めている。

 このうち佐賀県は2008年に導入。犬か猫を計6匹以上飼っている場合に適用している。今年3月末時点で98件の届け出があり、県職員が定期的に訪問して不妊・去勢手術を指導。住民の苦情を受けて訪問した飼い主が届け出をしていなければ、その場で手続きをしてもらう。再三の要請に応じなかったり、虚偽申請をしたりした飼い主には5万円以下の過料を科す。



飼い主が入院して行き場を失った猫たち。周辺環境に悪影響が及ばないよう、特例で収容された=今年1月、福岡市東区の市東部動物愛護管理センター

飼い主が入院して行き場を失った猫たち。周辺環境に悪影響が及ばないよう、特例で収容された=今年1月、福岡市東区の市東部動物愛護管理センター