すごい映画を観てしまったなぁ。感動と言うのは言葉に表せないものなのよね・・
眠れぬ真夜中にこの映画を観て、生きてて良かったとさえ思ったもん。
ここ数年の最高傑作でした。
一旦消したPCをつけて、思わず検索してしまう。
エルンスト・ゲバラの長い旅の話なの。ゲバラに興味が無くても、ロードムビーとしても若者の旅の物語としても、優れた名作でやす。
大体がロードムビーって好きなんですが。中米はメキシコ・ニカラグア辺りしか行っておらず、ペルー・チリアルゼンチン・ベネゼラ・キューバも、行きたかったが回れなかった。
それを、旅する若き医学生のゲバラの目で見られる。
音楽も素晴らしくて、民族音楽や、音に係わる人にも魅力的。所詮、アカデミー賞ですから、音楽賞しかもらえなかったけど。
原作は( Diarios de motocicleta)エルネスト・ラファエル・ゲバラ、後の革命家チェ・ゲバラの若き日の南米旅行記『チェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行日記』をもとにしていて。
ロバート・レッドフォードとヴァルテル・サレスによって2004年に映画化されたの。ウルグアイ人の音楽家、ホルヘ・ドレクスレルによるこの映画の主題歌「河を渡って木立の中へ(Al Otro Lado del Río)」は、2005年にスペイン語ではじめてアカデミー歌曲賞を受賞したとあります。
1952年。アルゼンチンのブエノスアイレスの医大生エルネストは、友人のアルベルト・グラナドと共に1台のバイク(ポデローサ号)にまたがり、12,000キロの南米旅行へ出かける。ポデロッサは強力なって意味ね。
これがね、ボロな旧型ノートン500で、ヘルメットも皮ですごくいいの。
グラナドは29歳、エツンスト・ゲバラは23歳の時、グラナドは30になる前に旅を計画してゲバラを誘うの。また従兄弟だったとも云われます。
喘息もちでアレルギーもあるエルンストの旅を、家族は心配する。
家族は彼の為に避暑地に一家を上げて越した経緯もあって、この母親役(メルセデス・モラーン)の様子がとてもいいの。こういうワンシーンしか出ないような役が素晴らしいと、物語に深みが広がるもんよね。
この母親や妹や家族がいてこそ、あのゲバラがあったんだと思える。
旅の中で、チリの最下層の鉱山労働者や、ペルーのハンセン病患者らと出会いなど、途中巻き起こるさまざまな出来事を通して、南米社会の現実を思い知らされる。
後に、革命家となった若き日のチェ・ゲバラの生涯に、大な影響を及ぼした南米旅行なんだけど。
アンデスの雪山やマチュピチュ遺跡、アマゾン川など、南米の風景や、時代背景の中で流れるタンゴやペレス・プラードのマンボなども印象的。
映画のラストには、80歳を超えたアルベルト・グラナド本人が少しだけ登場する。
アルベルト・グラナドが『モーターサイクル・ダイアリーズ』の撮影に同行し撮影風景を記録したメイキング・ドキュメンタリーの『トラベリング・ウィズ・ゲバラ』(2004) もあるんだけど。
生涯ゲバラを愛した親友の姿が、胸に迫ります。
しかし、良い映画というのは製作から監督、役者の音楽と、全てのスタッフの深い思いが共有されているってことだと思う。
この映画は、ゲバラへの賛美や偶像化されたヒーローの匂いを、むしろ用心深く、排除してるように見えるのね。
多感で生真面目な若い医学生が、現実と向き合いながら成長していく物語であり、貧乏旅行の旅の姿もとてもリアルだ。
ドキュメンタリーフイルムでは、と感じる場面も多くあって、127分の映画でも微塵も退屈はしなかった。
主演は、ガエル・ガルシア・ベルナル。アルベルト役を演じたロドリゴ・デ・ラ・セルナ、この二人の生き生きとした表情に引き付けられる。もう役者の勝利で、ガエル・ガルシア・ベルナルは、実にナイーブに、情熱的なゲバラの若き日を演じていますの。
生真面目すぎるエルンストと、世俗的ではあるが優しいグラナド。若い青年らしい会話もとても自然で親しみがわく。
この二人のスペイン語は、余り訛りがなかったんだけど、ケチュア語とかペルー、チリのなまりもすごくリアルでしたの。現地の人をそのまま使っているからか。
しかし、当時の南米の貧困や少数民族の姿は、今どうなっているんだろう。
地主に土地と家を奪われて、それでも家族を養おうと季節労働(それも地主の事業)に借り出される山間の民。
共産党員と判っただけで、家を追われ警察に追われ、野宿しながら鉱山の仕事を探す夫婦。
私が滞在していた2000年頃でも、その現実はそう変っていなかった。
首都の町には賑わいもあって、流行の店も若いお洒落な人達も見られたけど。10分も町を出て走れば、荒涼とした原野や、急峻な山間で、へばりつくように小屋や山羊の群れが点在している。
少数民族の華やかな民族衣装も、その暮らしの事実を知ると、観光気分では見られなかった。
豊かな資源とインカ以来の歴史を持ちながら、その貧しさは、どこから来ているんだろうか。
エルンストは大学でハンセン病を研究していて、旅の途中、リマの研究者の下を訪れて世話になる。
老医師は親切で病院や手術の様子も見せてくれ、自分の著書をエルンストに見せるんだけど。
感想を求められて、エルンストは陳腐な表現でつまらぬ本でしたと言うの。老医師はそれを聞いて、率直な意見を言ってくれてありがとう。初めてそういう評価を聞く事ができたと答えるの。
そしてアマゾンの奥地の、ハンセン病の隔離施設を紹介してくれる。アマゾンを舟で登っていく。
そのハンセン病の施設は。医師・修道女たちと、患者の住むエリアを隔離する深く暗い河が横たわているの。医師達も舟で川を渡って施設に通う。
主題歌の「河を渡って木立の中へ(Al Otro Lado del Río)」は、直訳すると、川の向こう側って意味なんだけど。
川によって遮られてるものは何なのか。向こう側とは。
初めて施設に渡ると修道長がゴム手袋を渡して、規則だからそれを嵌めて患者に接するように伝えるのね。
でもエルンストは素手で、施設のリーダーの老人に握手を求める。老人のとまどった、けれど感謝の表情が施設の姿を現している。
ミサに出ないと食事抜きのきまりでも、ダンスパーティを開いて、患者も若い修道女もマンボを踊るシーンも切ないの。
女好きでダンスも上手いグラナドが、明るさをふりまく。この陽気さはとても優しいの。
ハンセン病は、伝染すると日本でも長く偏見に苦しめられ、強制堕胎を強いられたりと、悲惨な歴史がある。
隔離施設は無くなっても、一般的な人々の偏見に満ちた視線は、いまだにあるんだろうね。
施設を去る夜に、エルンストは川に飛び込み泳いで渡る。
喘息で死んでしまうとグラナドが叫び、何がいるか判らない夜のアマゾンを泳ぐエルンストに、人々は戻れ、戻ってこいと叫ぶんだけど。
けれどエルンストは泳ぎ続ける。
見ている患者達は、次第に、がんばれ、泳ぎきれと応援していくのね。エルンストは泳ぎきる。
ゲバラの喘息の発作が、どの程度のものなのか知らなかったんだけど、アルベルトの証言もあって、かなり酷かったように描かれている。旅の途中でも、度々苦しんで動けなくなる。
喘息の息子をを持っているんで、他人事と見ていられない苦しみですの。
この発作を抱えて、最後の地までここから15年の旅をしたのかと、改めて革命家ゲバラへの人生への思いもこみ上げる。
自分も病を抱え、医師でもあったことは、ゲバラの人間的な側面を作っているんだと思うの。
ゲバラについては『ボリビア日記』と、あくまでも当時の銃殺刑はボリビア政府の決定だとする、元CIAのフェリスの手記も見たがけど。
当然、想像はつく。
皆がどんな風にゲバラを呼ぶのか知らなかった。映画の中でアルベルトが『おいッ!』『おいッ!』と呼ぶ。
そし て、ゲバラの周囲にいた者たちは、こんな風に『Che(おいッ!)』とゲバラを呼んでいたんだね。Che Guevara チェ・ゲバラ。『おいッ!ゲバラ』と、気軽に親しみを込めて呼ばれた人。
そして、この映画を胸熱くして見たのは、製作総指揮者であるロバート・レッドフォードだろう。
ポール・ニューマンがプロデューサーし、レッドフォードをキャスティングして、実在した二人の西部のアウトローを描いた映画があったの。『Butch Cassidy and Sundance Kid/明日に向かって撃て!』ほんといい作品でした。音楽もヒットしたね。
この映画は、ウイリアム・ゴールドマンが、8年の歳月をかけて脚本化した優れたシナリオで、ジョージ・ロイ・ヒルによって、悲痛な物語にすることなく、当時のアメリカの社会背景も見事に反映させた名作。アメリカ公開は1969年。
レッド・フォードは今、主宰する映画人育成の場を『サンダンス・インスティテュート』と、この映画の役名をつけたのね。
そしてこの映画の最後の舞台も、ボリヴィアだった。
ゲバラが暗殺された翌年、『明日に向かって撃て!』が撮影されたの。脚本家と監督、そして製作人達が、最後の闘いの場をボリヴィアとしたとは思えないだろうか。
ゲバラが暗殺された翌年に世に出た『ボリヴィア日記』と『The Motorcycle Diaries』を、リベラル派と呼ばれる映画人のレッドフォードは、どのような気持ちで読んだのだろう。
以前からこの映画化権を持ち、自らがゲバラの役を演りたかったに違いないレッドフォード。この映画には、彼のゲバラに対する思いが、根底に脈々と流れているように感じらます。
散漫な感想にしかならない。
映画評にもなっていないんだけど。
アメリカはスペインでは北アメリカか合衆国としか呼ばない。南アメリカがアメリカなの。スペインの罪はここでは於いとく。
もう旅に出る体力も無いけど、縦断してみたい南米大陸なの。
若い方に見て欲しい一本でもあり、若者は荒野をめざして欲しい気もする。
いや、すごい映画でした・・