ご存知でしたか、子どもにも、うつがあることを。
こんな言葉で製薬会社が子どもに対する抗うつ薬の治験(第3相臨床試験)を行おうとしています。
大阪のシオノギ製薬です。
シオノギといえば、昨年、小児向けのADHD薬、インチュニブを発売させ、今年はおそらくビバンセ(リスデキサンフェタミンメシル酸塩)を出すことになりそうです。
そして、今回は小児をターゲットにした抗うつ薬です。
治験対象は9歳から17歳までの、うつ病と診断された子どもたち。
ページにはセルフチェックリストも作られています。
□ いつもいらいらした気分になる
□ 不登校,引きこもりがちだ
□ やろうとしたことが思い通りにできない
□ 何をするにも自信が持てない
□ 落ち込むことが多く,元気になれない
□ 嫌なことをされても黙っていることが多い
□ 楽しみにしていることがない
□ 誰かといてもいつも独りぼっちな気がする
□ 居場所がないような気がしてそこにいたくない
□ いつも退屈な気がする
さらに、シオノギの作った「こどものうつ.jp」では、以下のようにこどものうつを説明しています。
以前は、子どもに成人と同様の基準で診断できるようなうつ病は存在しないと考えられていましたが、1970年代後半から、子どもにおいても大人の診断基準を満たすうつ病が存在することが明らかになり、近年、子どものうつ病が注目されてきています。 元気がなくなったり、食欲が落ちることがあります。抑うつ状態になると、本人の努力とは別に朝起きられなくなったり、集中力が落ちたりします。 身体症状の訴えがほとんどで、なかなか抑うつ状態に気づきにくいこともあります。お子さんが、怠けているわけでも、努力が足りないわけでもありませんが、成績が下がることがあります。 大人のうつ病とは以下の点で違うことがあります。 抑うつ気分の代わりにしばしばいらいらが中心の症状となることがあります。 大人と異なり周囲のことに無関心にならず、ささいなことに反応しやすく敏感になることがあります。 うつに悩むのは大人だけではありません。子どものうつにも気づいてあげてください。18歳までのうつ病の累積頻度は20%といわれ、5人に1人の子どもがうつ病を経験すると推定されます。 |
日本において、こどものうつ病を大きく取り上げたのは、北海道大学の傳田健三氏です。2003年、小中学生3331人を対象に調査を行い、小中学生の13.0%(小学生7.8%、中学生22.8%)が抑うつ傾向にあるとしました。(小中学生ということは、6歳から15歳のこどもですが、2003年ではその13%が抑うつ状態。それが今や20%に数字も上がっています。)
そして、傳田氏は子どもに対しても抗うつ薬を用いた薬物療法を積極的に行うべきであると主張したのです。
これが子どもへの向精神薬投与の先駆けとなり、以降、投与をためらう医師が少なくなったと、(私の取材した児童精神科医の見解です)。
しかし、その後、抗うつ薬の小児への投与に関しては添付文書の書き換えなど、慎重さを求める動きがありました。
とくにSSRIのパキシルは、赤字警告が出ています。
海外で実施した7~18歳の大うつ病性障害患者を対象としたプラセボ対照試験において有効性が確認できなかったとの報告、また、自殺に関するリスクが増加するとの報告もあるので、本剤を18歳未満の大うつ病性障害患者に投与する際には適応を慎重に検討すること。 |
としたら、今回のシオノギの小児への抗うつ薬は、これまでの抗うつ薬とは作用機序が異なるものなのか?
いや、今回の治験は、なんとこれまでも使われてきたSNRIのデュロキセチン塩酸塩(サインバルタ)です。
http://www.clinicaltrials.jp/user/search/directCteDetail.jsp?clinicalTrialId=19580
http://www.shionogi.co.jp/company/g0l2sg0000004msm-att/pipeline.pdf
しかし、サインバルタの現在の添付文書には以下の文言があるのです。
・抗うつ剤の投与により,24歳以下の患者で,自殺念慮,自殺企図のリスクが増加するとの報告があるため,本剤の投与にあたっては,リスクとベネフィットを考慮すること。
・海外で実施された7~17歳の大うつ病性障害(DSM-IV-TR※2における分類)患者を対象としたプラセボ対照の臨床試験において有効性が確認できなかったとの報告がある。
確認できなかった「有効性」を何とか確認するための治験ということなのでしょう。
シオノギ製薬は大阪府とともに、〈「生きにくさ」を抱える人々が、個人の持つ本来の能力を発揮していただくためのサポートを行っております。その具現化に向けて「子どもの未来支援」に関する事業連携など、様々な取り組みを行っております。〉
http://www.shionogi.co.jp/company/news/2017/qdv9fu0000013p1t-att/170125.pdf
これに対しては以前、大阪府に、子どもへの向精神薬投与に関しての注意喚起を電話で伝えたことがあります(その後、多くの方が大阪府にアクションを起こされました)。
が、事態はいっこうに変わっていないどころか、子どもへの投与が拡大されつつあります。
そもそも子どものうつとは何ぞや?
チェックリストを見ると、これは一つには自閉スペクトラム症の二次障害としての抑うつを狙ったものかもしれないと感じました。
シオノギ製薬としてはすでにADHD薬は2種類を手にしています。しかし、自閉スペクトラム症そのものを「治す、あるいは改善する薬」はありませんから、発達障害流行りの昨今、その二次障害への投薬が、この業界でまだ成長できる分野というわけです。
以前、抗うつ薬の小児への投与について添付文書を書き換える事態にまで至ったものを、それを覆すために行われる治験。参加者にはこうした情報は伝えられるのでしょうか。
非常に心配です。