体験談が届いているのですが、今日は読者の方から教えてもらった、うつ病、抗うつ薬に関する情報を紹介します。

 まずは、11月5日の中日新聞にこんな記事がありました。

 「前頭葉の神経細胞 抗うつ薬で若返る」

 脳内で記憶や社会性をつかさどる前頭葉の神経細胞が、世界で最も一般的に使われている抗うつ薬によって若返ることを、藤田保健衛生大の宮川剛教授と大平耕司准教授らの研究チームが、マウスの実験で発見した。人間のうつ病などの精神疾患の予防法や治療薬の開発が期待される。5日付の英科学誌「モレキュラー・ブレイン」に掲載された。

宮川教授らは、神経伝達物質の働きを高める抗うつ薬「フルオキセチン」(注・プロザック、日本では未認可)に注目した。

世界で4000万人以上が服用する薬だが、なぜうつ病に効くのか、具体的な仕組みは知られていなかった。

生後2カ月に成長したマウスに、この抗うつ薬を3週間投与した後、前頭葉を観察。成熟した神経細胞や神経回路が通常の6~8割に減少する一方で、死滅した跡がないことを確認した。

成熟した神経細胞が生後間もない未成熟な状態にさかのぼって、性質が変化する「若返り」を起こしたことを裏付けた。

人間でもマウスでも、未成熟な脳は強い興奮や攻撃性を持っていて、成熟とともにそれらの性質を抑える神経細胞が増えることが知られている。

宮川教授は「抗うつ薬を使った患者が攻撃的になったり、興奮し過ぎたりする副作用が問題になっている。神経細胞が未成熟に若返った結果かもしれない。研究成果が副作用の少ない薬の開発や脳の老化への対策につながれば」と話している。(2013115日 中日新聞朝刊3面より)

 http://edu.chunichi.co.jp/?action_kanren_detail=true&action=education&no=3920


 抗うつ薬で攻撃性が出たのは、成熟した神経細胞が減少して、脳が未成熟になった――つまり若返ったから……というのです。

 抗うつ薬については、ここのところ、なんだかもう破れかぶれの「話」が多くなっているような気がします。前にも紹介した「うつの痛み」……かと思ったら、今回は、「若返り」です。

 抗うつ薬による攻撃性増大、アクチベーションシンドロームは、当事者にとってはとても深刻な問題です。薬によって感情のコントロールをなくした結果、大切なものを失うような行為に及び、そのことが大きな心の傷になっている人も大勢います。


 「抗うつ薬を使った患者が攻撃的になったり、興奮し過ぎたりする副作用が問題になっている。神経細胞が未成熟に若返った結果かもしれない」

では、その副作用についてはどう考えているのでしょうか、そうしたことにはまったく触れず……さらに、その原因は神経細胞が薬によって未成熟になったため……とは? これはもう、実際、抗うつ薬を飲んでいる人を非常にバカにした話と言えます。

 それに、「未成熟である」ことと、「若返り」ということが同列に述べられているのが、どうにもよくわかりません。

 抗うつ薬は脳のアンチエージング?

 これが行き着く先は、抗うつ薬の認知症への適応ということでしょうか。


マイナビウーマン

 もう一つ、これも読者の方から教えてもらったのですが、「マイナビウーマン」というサイト。これは働く女性を対象にさまざまな情報を提供するページですが、「うつ病」に関する情報(コラム)がかなりあって、その内容の深さといい加減さにびっくりさせられます。


うつ病によく見られる症状とは? 筋肉痛 消化不良

http://woman.mynavi.jp/article/130925-039/

 その中で、うつ病の症状かもしれないとして紹介されているのが、胸の痛み、筋肉痛、関節痛、頭痛、腰痛などの「痛み」です。

 そして、このHPで検索をかけると、サポンサードサーチ(検索連動型広告)として、「ご存知ですか、うつの痛み」という広告が出てきます。例の、イーライリリーと塩野義製薬が作ったコマーシャルのページに飛ぶことができるのです。

さらには、新宿クリニックやハートクリニックへも連動しています。


食欲の秋! その食欲は「冬季うつ病」のサインだった!

 http://woman.mynavi.jp/article/131024-034/

 前文

 秋も深まり寒さが増してくる今の時期は、うつ病患者が増えているそうですよ。そして食欲が無くなる夏の「うつ病」とは打って変わり、寒い時期のうつ病は「食欲旺盛」になるそうです。あなたは大丈夫?



受験生の76%に症状あり。「受験うつ」は受験生の身近な問題

 http://woman.mynavi.jp/article/131106-097/

 前文

受験シーズン到来を前に、新宿メンタルクリニックは受験期のうつに関するインターネット調査を、10代から20代の男女合計400人を対象に行った結果、うつの症状と見られる諸症状を感じた事があると回答したのは全体の76.6%と高い数字になった。


主婦はうつになりやすい!? 男性よりも70%も高いうつの可能性

 http://woman.mynavi.jp/article/130602-004/


薬が効かないは注意信号!うつ病かもしれない症状セルフチェック5

 http://woman.mynavi.jp/article/131024-123/

セルフチェック項目は以下の5つ

①眠りの質が悪い

②いつも体のどこかが痛い

③食欲が増える・減る

④胃腸の具合が悪い

⑤耳や目が悪くなる

 つまり、そのための薬を飲んでも治らなければ、うつ病を疑えということです。


うつ病は「パーキンソン病」の原因にも。リスクは「3.24倍」――台湾研究

http://woman.mynavi.jp/article/131005-028/

「うつ病」と診断された4,634人と、されたことのない18,544人について、その後10年間の経過を観察しました。この結果、うつ病経験者がパーキンソン病を発症した割合は1.42%、うつ未経験の人の場合は0.52%に留まったそうです。年齢などの条件を加味すると、うつを経験した人がパーキンソン病にかかるリスクは「3.24」倍。

研究を主導したアルベルト・ヤン博士は、「うつ病はがんや脳卒中のリスクを高めることが分かっています。今回の結果は、パーキンソン病にも同様に影響を与えることを意味しているのではないでしょうか」と解説します。

過去のうつ病に関する実験とパーキンソン病に関する実験を照らし合わせてみると、神経伝達に似たような疾患が見られるそうです。また、うつ病が慢性的な脳の炎症を起こすという研究結果もあり、これがパーキンソン病を引き起こす可能性も考えられます。ただし、はっきりとした因果関係はまだ分かっていません。

「抗うつ剤での治療が、パーキンソン病の予防に役立つかもしれない」と研究チームは付け足しています。まだまだ分からないことが多い病気、予防法や治療法が早く見つかるよう、期待せずにはいられません。(以上、引用)


 この文章を読む限りでは、実験に参加した「うつ病」と診断された4634人は、10年間、抗うつ薬治療を一切受けてこなかったかのような印象です。

 ということは、台湾ではうつ病と診断されても、抗うつ薬治療をしないということでしょうか? でなければ、「「抗うつ剤での治療が、パーキンソン病の予防に役立つかも」というセリフは出てこないことになります。

 しかし、これはどう考えても、抗うつ薬治療によるパーキンソン病発症という流れのような気がします。

 うつ病――脳の炎症かも?――それが原因でパーキンソン病発症――だからパーキンソン病予防のために抗うつ薬を???

 つまり、今度は、抗うつ薬のパーキンソン病への適応拡大ということではないかと考えたくなってきます。


 この「マイナビウーマン」の記事は、少々論理的におかしかったり、かなり軽いノリだったり、事実でないことを事実として断定してしまったりしていますが、読む方は書かれていることをそのままに受け止めるはずです。

 ほとんどの記事がこんな感じですが、海外の研究をいち早く紹介していて、そのソースも示しています。だから、ちょっとインテリっぽいし、そうしたことを根拠に信頼感を高めているのが、さらに罪作りです。

 たとえばこんなまことしやかな記述を読んだ読者はどう感じるでしょう。

「世界保健機関(WHO)の調べによると、うつ病に悩まされている人たちは世界で35千万人にもなるそう。これはあくまで「患者」の数だけなのだから、診療を受けていないうつ病の人たちを含めた数字は、もっと大きなものであることには間違いなさそうだ。」

秋から冬にかけて増えやすい“うつ”(前の記事を指してのことでしょうが、本当でしょうか?)。8人に1がかかるといわれていますが、実際は未受診の方も少なくありません。心の病のため症状が目に見えにくく、分かったとしても他人は指摘しにくいですし、自分も「認めたくない」という気持ちがつい出てしまいますよね。しかし放置すれば放置するほど、うつは悪化するもの(本当ですか?)。一般的に完治まで最短3ヶ月といわれていますが、 完治するのに1年~数年間かかるまで悪化するのは意外とすぐなのです。」

 何を根拠にこうした記事を書いているのか、ちょっと聞いてみたくなります。

 そして、どの記事を読んでも、うつ病うつ病、なんでもうつ病、誰でもうつ病……いやはや、こうしたネットの情報にはどうにも歯止めがききません。